☆☆☆
森の中心。巨大な岩に囲まれた円形の空間。
中央に鎮座する“封印の珠”。
かつて八犬士が封じた、玉梓の怨念を封印する最後の結界核には、明らかな異変が起きていた。
その表面には、まるで蛇が這ったような黒い亀裂が走り、そこから滲み出す霊気が周囲の大気を狂わせている。
「間に合わなかった……!」
美咲が符を掲げ、急いで結界を修復しようとするが――。
「もう遅いわよ」
どこからともなく、少女の声が響いた。
八犬士たちが一斉に警戒態勢を取る。
その声の主。闇の中からゆらりと姿を現したのは、黒い装束を纏った一人の少女だった。
年は美咲と同じくらいに見える。だが、その佇まいには異様な気配が漂っていた。空気が冷たくなり、周囲の光すら歪む。
「お前は誰だ」
玲音が低く問う。
少女は微笑むと、足元に黒い霊気を集めて、虚空に紋様を描いた。
「名乗るほどのものじゃない。でも、あえて言うなら、風露(ふうろ)」
「風露……?」
蒼真が唸る。
「その名前、記録にはない。お前、何者だ」
風露は微笑を浮かべたまま、背後の封印の珠に視線を移す。
「私は因じゃない。玉梓様がこの世界に再び足を踏み入れるために、現世に繋ぐ針として選んだ刺客。あなたたち八犬士にとっては、試練以上の存在かもね?」
一瞬、空気が変わった。
風露の足元から黒い気流が立ち昇り、それが獣のような形を成していく。
怨将とは明らかに異質な存在。より古く、より凶悪な霊的形態。
「これは……怨形……!」
美咲が目を見開く。
「怨将のさらに先、因果を固定する霊……これは完全に玉梓の力!」
風露が左手を掲げると、封印の珠が微かに悲鳴のような音を発する。
「その珠ね、もうすぐ砕ける。そしたら、あとは……第九の因が目を覚ますだけ。私はその露払いってわけ」
「第九の因、やっぱり存在してるんだな」
景臣が前へ出ると、仁の珠が淡く輝き、敵の動きを探る。
「でもそれがお前じゃないのなら……!」
「その通り、私なんかじゃない。第九の因は、もっと深くて怖い存在よ」
風露の目が一瞬、紫に光った。
「それを目覚めさせるために、あなたたち八犬士を揃えてあげたの。だって必要でしょう?全ての珠が揃っていないと、因果の器は開かないから」
「……!」
八犬士全員が一斉に視線を交わす。
森の中心。巨大な岩に囲まれた円形の空間。
中央に鎮座する“封印の珠”。
かつて八犬士が封じた、玉梓の怨念を封印する最後の結界核には、明らかな異変が起きていた。
その表面には、まるで蛇が這ったような黒い亀裂が走り、そこから滲み出す霊気が周囲の大気を狂わせている。
「間に合わなかった……!」
美咲が符を掲げ、急いで結界を修復しようとするが――。
「もう遅いわよ」
どこからともなく、少女の声が響いた。
八犬士たちが一斉に警戒態勢を取る。
その声の主。闇の中からゆらりと姿を現したのは、黒い装束を纏った一人の少女だった。
年は美咲と同じくらいに見える。だが、その佇まいには異様な気配が漂っていた。空気が冷たくなり、周囲の光すら歪む。
「お前は誰だ」
玲音が低く問う。
少女は微笑むと、足元に黒い霊気を集めて、虚空に紋様を描いた。
「名乗るほどのものじゃない。でも、あえて言うなら、風露(ふうろ)」
「風露……?」
蒼真が唸る。
「その名前、記録にはない。お前、何者だ」
風露は微笑を浮かべたまま、背後の封印の珠に視線を移す。
「私は因じゃない。玉梓様がこの世界に再び足を踏み入れるために、現世に繋ぐ針として選んだ刺客。あなたたち八犬士にとっては、試練以上の存在かもね?」
一瞬、空気が変わった。
風露の足元から黒い気流が立ち昇り、それが獣のような形を成していく。
怨将とは明らかに異質な存在。より古く、より凶悪な霊的形態。
「これは……怨形……!」
美咲が目を見開く。
「怨将のさらに先、因果を固定する霊……これは完全に玉梓の力!」
風露が左手を掲げると、封印の珠が微かに悲鳴のような音を発する。
「その珠ね、もうすぐ砕ける。そしたら、あとは……第九の因が目を覚ますだけ。私はその露払いってわけ」
「第九の因、やっぱり存在してるんだな」
景臣が前へ出ると、仁の珠が淡く輝き、敵の動きを探る。
「でもそれがお前じゃないのなら……!」
「その通り、私なんかじゃない。第九の因は、もっと深くて怖い存在よ」
風露の目が一瞬、紫に光った。
「それを目覚めさせるために、あなたたち八犬士を揃えてあげたの。だって必要でしょう?全ての珠が揃っていないと、因果の器は開かないから」
「……!」
八犬士全員が一斉に視線を交わす。


