八つの珠が一斉に微かに光を増し、その決意に応えるように共鳴した。
美咲の屋敷の天井を越えて、夜空に散る星々が、彼らの歩みを見下ろしていた。

その時、美咲が一歩、火鉢の外へと進み出る。
その表情には、決意と、どこか静かな焦りが混ざっていた。

「けれど、封地へ向かうには、守りだけでは足りない。あそこは、すでに浸食されてる」

静かに呟いた美咲が、掌を空へと掲げる。

「七体の守護を呼ぶしかない。式、開陣!」

ドン、と空気が重くなった。

屋敷の広間が震え、天井を突き抜けて巨大な円陣が浮かび上がる。
陰陽五行を重ね合わせた多重の法陣が、音もなく回転を始めると、空間が歪み、重力が逆巻く。

八犬士たちは、思わずその場に踏みとどまった。

「なんだ……この圧……!」

蒼真が呟く。

「式神の……いや、それ以上の気配……」

景臣の顔からも、平静が消えた。

やがて光が走る。

まず現れたのは、、碧緑の光を放つ巨大な龍。
双角の頭を傾げながらも、空気を震わせるのは緑龍・阿古夜。

「龍⁉しかもこんなに大きい……」

千龍が思わず声を上げた。

そして、炎を纏った三体の狐たちが舞い降りる。
長兄の白火、情熱的な次男の炎夜、そして艶やかに微笑む長女の華蓮。
彼らは九尾の狐の血を引く三兄妹。

続けて、銀色の鱗を持つ、艶やかな双子の蛇神が現れる。
兄の奏夜は冷静に、妹の香夜は妖艶に宙を舞い、二柱が絡み合いながら空間を守る。

最後に現れたのは、翼を広げた威厳ある天狗。
白髪を風にたなびかせ、鋭い双眸で全体を見渡すその姿は、まさに霊山の主。大天狗・鳳泉。

七体の式が広間に顕現し、円陣の中心に美咲が立つ。
彼女の背には、星と同じ数の光が浮かび、まるで一夜にして軍が編成されたような威容を誇っていた。