炎が揺れる。
怨霊の咆哮が、山村の静寂を切り裂いていた。

村の広場では、千龍たちが村人たちをかばいながら、必死の応戦を続けていた。

「くっ……数が多すぎる……!」

蒼真が汗を滴らせながら印を結ぶ。結界がかろうじて怨霊の突撃を防いでいるが、長くは保たない。

「こんな時に……!」

千龍が叫びながら村雨を抜く。水の気を帯びた刃が、怨霊の影を一閃する。

だが、切っても切っても現れる怨霊たち。まるで何かに呼び寄せられているようだった。

「これは……玉梓の誘導……!村人を囮にして、私たちを試してる!」

美咲が式盤を見つめながら叫んだ。

「そんなこと、させるか……!」

千龍が前に出ようとした、その時。
地面を焼き裂くほどの熱風が吹き抜けた。
怨霊の群れを切り裂くように、炎が爆ぜた。

「悪霊ども――この地に未練があるなら、燃やし尽くしてやる」

藤雅の声が響いた。

彼は広場の一段高い岩の上に立ち、火遁の札を次々に展開していた。まるで舞うように、それでいて一糸乱れぬ動き。
火の壁が村人を守るように広がり、炎の竜が怨霊を焼き払っていく。

「藤雅……!」

美咲が目を見開く。

怨霊たちは炎に包まれながらも、なお叫び声を上げて這い寄ろうとする。
だが、その前に藤雅が静かに印を結び、低く呟いた。

「俺は、犬山道節の血を引く者。忠の珠を継ぐ者。……そして今ここで、命を懸ける覚悟を持った者だ」

その瞬間、彼の掌に浮かぶ“忠”の珠が、眩い光を放った。
まるで答えるように、千龍、蒼真、直人、蓮、白夜、景臣たちの珠も共鳴する。
空間が震え、怨霊たちの動きが止まる。

それは、恐れ。
珠たちが共に放つ意志の波動に、怨霊たちが本能的に怯えていた。

藤雅は燃え立つ火の中を一歩踏み出し、叫んだ。

「俺はもう過去には縛られない。守れなかったものにすがるだけの“忠”など、意味はない……だから俺は、今を共に戦う者たちに――この命を賭して、忠を尽くす!」

言葉と共に、彼の珠が炸裂するような光を放ち、炎が竜と化す。
その炎は怒り狂う怨霊の中枢を貫き、すべてを焼き尽くした。

やがて、煙が晴れると同時に、あれほど荒れ狂っていた怨霊の気配は静まり、村に再び風の音が戻ってきた。

静寂の中、藤雅は深く息を吐いた。

「俺は……お前たちに忠を誓おう」

その言葉は、炎の残り香の中に、まっすぐに響いた。

千龍は微笑みながら頷いた。

「歓迎するよ、藤雅」

七つの珠が静かに、共鳴を続けていた。

物語は、また一歩――核心へと進んでいく。