屋敷が業火に巻かれる。
そこらじゅうから人々の怒声や悲鳴、泣き声が上がり地上にできた地獄絵図だ…家族は皆殺され、たまたま居合わした親戚、友人も殺された。
生命は灰になり消ていく。

あぁ…許さない…絶対に許さない…。
我を裏切り殺し、家族まで奪った…燃やし消した、アイツ…黒曜は死んでも許さない…。

口から血が吹き溢れる…もうこの命は終わりを迎えようとしている…最早炎の暑さや致命傷の痛みすら分からない。

力の入らない体を無理矢理動かし、己の血で塗れた手で床に陣を描く…。震えながら描いているコレはとても発動するとは思えない程不格好だ。
だが、このまま何もしないで死ぬよりは全然マシだ。

この術に足りなかったのは、強い渇望…念だ。
今の我ならば生への醜いほどの執念に、復讐への燃え盛るような思いの二つの念で、術を完成させられる……まさか己が使うとは思わなかった。
最後の文字を書き終え、淡く陣が光り出す…良かった一応は発動したようだ。
もう体は動かない…意識が遠のく。

「次は…間違えない…奪わせてなるものか…」

無意識に吐き出した呟きは炎の轟音に掻き消された。






満月の夜。最強と呼ばれた金剛の陰陽師は亡くなった。









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耳に赤子の泣き声が届く。目を開けようとするが中々上手く周りの様子が伺えない…一生懸命目を開けていく内に次第に景色が見え始めた。

ここは何処だ……?

というか俺は…殺されたはずッ!段々あの日の記憶を思い出し、ドス黒い思考に侵され始める。

早く!一刻も早く殺さねば!まだ俺は死んでいなかったんだ!

逸る気持ちのままに起きあがろうとするが、体が動かない。何故だ?何が起きている?

霊力を体中に巡らせて異常を探す…なんか縮んでいないか?我…よくよく見てみれば豊富にあった霊力も無に等しい。

まさか…信じ難いが…

試しに唯一動かせそうな腕を天に向かってあげてみる。目に入ったのは赤子の小さき腕…グーパーしてみても、その赤子の手が動く。

ほ、本当に術が…転生の術が成功したのか!?

思いつきで編み出した世の理から外れた術。
…これは神が我に与えてくださった機会に違いない…この人生ではもう間違えない。
安易に人に情を見せ隙を作らない…大切なものは全て我が守り抜く。
黒曜への復讐もしたいが、今の時代に奴が生きているかは分からない。だか…きっと奴にも築いたものがあるはず…我が死んだ以上黒曜が最強の座に着いたに違いない。そんな人物ならば残したモノはあるだろう…ならばそれを全て必ず破壊する。

真っ黒い思考を断つように部屋の襖が開かれ、中に二十代半ばに見える男女一名ずつ入ってきた。

「あらあら!泣いていたのね!気付いてあげられなくてごめんなさいね…燿蓮(ようれん)!」

「すまなかった燿蓮…」

女が我を抱き上げる…安心するな…心地よい。
男が我へ向ける眼差しは酷く優しいものだ。この2人から大切にされている事はすぐに分かる。
きっとこの人達が今世の我の両親なのだろう…。
ぼんやりとする頭で2人の顔を見る。

…今度は守り抜くから…奪わせないから…。

ウトウトし始めた我は母の子守唄で眠りについたのであった。