「どういうつもり!?」
屋敷に戻った後、あやめは扇をふりかざしてなずなを打ち据えていた。
乾いた音が響くたびに「っ」と息を飲む音が聞こえ、また苛苛が増す。
痛いとも、やめてとも言わないくせに健気に耐えているふりをすることだけは上手い。
何か言いたげにあやめを見上げるまなざしは反吐が出るほどに潤んでいる。何も知らない者が見たら庇護欲をそそるであろう哀れな有様だった。
「その目、やめなさいよ」
「っう、ご、めんなさ……」
なずなは首を引っ込めて背を丸めてうずくまる。亀のようで滑稽だった。
「わたしの行動を制限するなんて随分偉くなったのね。知らなかったわ」
丸まった背に強く叩きつけたら扇の骨が折れる音がした。これではもう使えない。
腹いせに投げつけてやろうと構えたところで「やめないか」と父親の声が聞こえ、興が冷めた。
「あら、お父様。ご機嫌麗しゅう」
顔をしかめた父親の後ろから小走りで駆け出した母親が、なずなの背を撫でている。あれしきで和らぐ痛みを与えたつもりはないというのに、滑稽だ。
「なずなを苛めるのはよしなさい。ぼろぼろじゃないか。この子だってお前のために」
「わたしのために? わたしのために何かできるほど頭の回る子だったら良かったのにね」
父親に庇われたなずながゆっくりと顔を上げている。何か言いたいことがあるらしくぱくぱくと口を開けている。
「そんな言い方をするものじゃないよ、あやめ」
「ならどう言えばいいのかしら。お父様ならご存知なのね? 素晴らしいわ! ヨルの巫女に――わたしに捧げられた貢ぎ物を食のたづきとしていらっしゃる方のお考え、ぜひ一度拝聴したいと思っていたのよ」
あやめの瞳に加虐心の焔が燃え上がる。
熱さえ伝わってきそうなその迫力に、父親は二度三度視線をさ迷わせて結局うつむいた。
あやめとて、もうあの7つの夜と同じ歳ではない。
屋敷に戻った後、あやめは扇をふりかざしてなずなを打ち据えていた。
乾いた音が響くたびに「っ」と息を飲む音が聞こえ、また苛苛が増す。
痛いとも、やめてとも言わないくせに健気に耐えているふりをすることだけは上手い。
何か言いたげにあやめを見上げるまなざしは反吐が出るほどに潤んでいる。何も知らない者が見たら庇護欲をそそるであろう哀れな有様だった。
「その目、やめなさいよ」
「っう、ご、めんなさ……」
なずなは首を引っ込めて背を丸めてうずくまる。亀のようで滑稽だった。
「わたしの行動を制限するなんて随分偉くなったのね。知らなかったわ」
丸まった背に強く叩きつけたら扇の骨が折れる音がした。これではもう使えない。
腹いせに投げつけてやろうと構えたところで「やめないか」と父親の声が聞こえ、興が冷めた。
「あら、お父様。ご機嫌麗しゅう」
顔をしかめた父親の後ろから小走りで駆け出した母親が、なずなの背を撫でている。あれしきで和らぐ痛みを与えたつもりはないというのに、滑稽だ。
「なずなを苛めるのはよしなさい。ぼろぼろじゃないか。この子だってお前のために」
「わたしのために? わたしのために何かできるほど頭の回る子だったら良かったのにね」
父親に庇われたなずながゆっくりと顔を上げている。何か言いたいことがあるらしくぱくぱくと口を開けている。
「そんな言い方をするものじゃないよ、あやめ」
「ならどう言えばいいのかしら。お父様ならご存知なのね? 素晴らしいわ! ヨルの巫女に――わたしに捧げられた貢ぎ物を食のたづきとしていらっしゃる方のお考え、ぜひ一度拝聴したいと思っていたのよ」
あやめの瞳に加虐心の焔が燃え上がる。
熱さえ伝わってきそうなその迫力に、父親は二度三度視線をさ迷わせて結局うつむいた。
あやめとて、もうあの7つの夜と同じ歳ではない。



