朝日が射し込む頃、息せき切って部屋に飛び込んできたのは両親だった。両親はあやめの手の中にあった花を見て、そろって息を呑んだ。
 
「あやめ、それ……っ」
「いったい、どこから」
「わかんない」
 
 これは本当だった。天井をすり抜けて降ってきていたのだから。
 
「おめでとう。あんたの娘――そっちは双子の姉かい? その子はめでたくココ様に選ばれたんだよ」
 
 突然聞こえてきたしわがれ声にあやめは身を強ばらせる。見たことのない老婆が両親の後ろからぬっと顔を出したのだ。
 
「ひっ」
「あやめ、大丈夫。こちらはこのお屋敷のおばばさまだよ。このお部屋を用意してくださったんだ」
「ほら、ごあいさつなさい」
 
 父親に宥められ、母親に促され、あやめはそっと頭を下げた。
 
「お……はようございます」
「はい、おはよう。ふうん。今回はこういう子かい」
 
 こういう子って、どういう意味?
 
 あやめは今になってこの花を掴んだ意味に思いを馳せたが、それはもう遅い。
 
「で、そっちで寝こけてるのが妹だね」
 
 老婆が顎をしゃくった先では、まだ寝息を立てているなずながいる。
 
「ああ! まったくなずなったら」
「ほらなずな、起きなさい」
 
 途端に両親がなずなの方へ行ってしまい、あやめはまた心がざわつく。しかし、老婆はふたりを止めた。
 
「構わんさ。知らん家で疲れただろ。起きるまでほっといてやろう。腹が減れば起きてくるさ。それより主役はお姉ちゃんの方さね」
 
 ――主役。
 
 その一言に、あやめの全身が目に見えない力で沸き立つ感覚があった。老婆は丸い背をさらに丸めてあやめをのぞき込む。
 
「これから世界はあんたを中心に回りだす。何せココ様がお選び遊ばしたヨルの巫女だからね」
 
 ここさま。よるのみこ。
 
 それが何を指すかはわからずとも、あやめの胸の内に花が咲いた。
 真紅の花びらが胸いっぱいに咲き誇る。
 おめかししたあやめの髪のように、くるりと巻かれた細い花びらが美しい。その合間に、ぴんと張った細い糸は飾り紐のようだった。
 あやめは皺に埋もれそうな老婆のまなこを見つめ返す。濁った瞳の奥に自分の微笑みが映って、感じたことのない高揚感が胸を満たした。