月のない真夜中だったのにそれが花だとわかったのは、それ自体が光り輝いているからだった。
「……なあに、これ」
眠い目を擦ったあやめは肘をついて上体を起こす。
赤い花が浮いている。
浮いているのではない、ゆっくりと下降している。
細長く薄っぺらい花びらをつけた赤い花が、はらはらと舞っていた。
上には不気味な木目の天井があり、空は見えない。
じゃあどこから? とあやめは目を凝らすが、わからずじまいだった。
花が落ちる先をじっと見つめる。
それらは羽根のようにふわふわと、そして水のように迷いなく、なずなの真上に降ってきていた。
なずなの寝息に合わせて小さく上下する布団の上に、次から次へと花びらが降り積もる。柔らかい光は、なずなの元に帰ってきたとでもいうように、ぴとりと寄り添い離れようとしない。
すぐ隣にいるあやめには目もくれず、なずなへ降り注ぐ花たち。あやめはしばしその光景に見とれていた。
「んん……」
なずなが寝返りを打った。最後に舞ってきた花びらが一枚、ふわりと浮いた。
「あっ」
あやめは無意識に手を伸ばしていた。
あやめは手のひらに花びらを握り込む。光っているが温度はない。すべすべしているのは見た目通りの感触だ。
あやめは手のひらをそっと開いてその光が逃げないのを確認すると、なずなの布団に積もった花をすべて鷲掴みにして自分の布団の上に押しつけた。
布団の上で指を組んで、花びらが逃げないように抑え込む。
(大丈夫かしら?)
そっと手を浮かせて様子を見る。花びらはなずなの元へ行く素振りは見せない。
ほうと息をついたあやめは、もう花びらはないかとなずなの方へ首だけ向けた。
「!」
なずなが、ぼんやりと目を開けていた。
「あやめちゃん……?」
「な……に」
あやめの鼓動がドッドッドッと胸を突き破らんばかりに暴れ回る。
なずなに見ていた? 見られた? いつから?
返せと言われるのだろうか。どうする?
素直に返すなんて絶対にいや。なずなの言うことを聞くなんてまっぴらごめんよ。
でも、なずながとうさまやかあさまに言いつけたら――
「おふとん、なおしてくれて、ありがと」
なずなは、そう舌足らずに言って、目を閉じた。すぐにすうすうと寝息が聞こえてくる。
「…………」
あやめの鼓動が静まっていく。
(なんだ。心配して損した。これで良かったのよ)
手のひらにすべすべした花びらを感じながら、あやめはもう一度目を閉じた。
「……なあに、これ」
眠い目を擦ったあやめは肘をついて上体を起こす。
赤い花が浮いている。
浮いているのではない、ゆっくりと下降している。
細長く薄っぺらい花びらをつけた赤い花が、はらはらと舞っていた。
上には不気味な木目の天井があり、空は見えない。
じゃあどこから? とあやめは目を凝らすが、わからずじまいだった。
花が落ちる先をじっと見つめる。
それらは羽根のようにふわふわと、そして水のように迷いなく、なずなの真上に降ってきていた。
なずなの寝息に合わせて小さく上下する布団の上に、次から次へと花びらが降り積もる。柔らかい光は、なずなの元に帰ってきたとでもいうように、ぴとりと寄り添い離れようとしない。
すぐ隣にいるあやめには目もくれず、なずなへ降り注ぐ花たち。あやめはしばしその光景に見とれていた。
「んん……」
なずなが寝返りを打った。最後に舞ってきた花びらが一枚、ふわりと浮いた。
「あっ」
あやめは無意識に手を伸ばしていた。
あやめは手のひらに花びらを握り込む。光っているが温度はない。すべすべしているのは見た目通りの感触だ。
あやめは手のひらをそっと開いてその光が逃げないのを確認すると、なずなの布団に積もった花をすべて鷲掴みにして自分の布団の上に押しつけた。
布団の上で指を組んで、花びらが逃げないように抑え込む。
(大丈夫かしら?)
そっと手を浮かせて様子を見る。花びらはなずなの元へ行く素振りは見せない。
ほうと息をついたあやめは、もう花びらはないかとなずなの方へ首だけ向けた。
「!」
なずなが、ぼんやりと目を開けていた。
「あやめちゃん……?」
「な……に」
あやめの鼓動がドッドッドッと胸を突き破らんばかりに暴れ回る。
なずなに見ていた? 見られた? いつから?
返せと言われるのだろうか。どうする?
素直に返すなんて絶対にいや。なずなの言うことを聞くなんてまっぴらごめんよ。
でも、なずながとうさまやかあさまに言いつけたら――
「おふとん、なおしてくれて、ありがと」
なずなは、そう舌足らずに言って、目を閉じた。すぐにすうすうと寝息が聞こえてくる。
「…………」
あやめの鼓動が静まっていく。
(なんだ。心配して損した。これで良かったのよ)
手のひらにすべすべした花びらを感じながら、あやめはもう一度目を閉じた。



