「イケメン君、振られたの?」
「さぁ、どうだろう」
「逃げられたって言ってたけど、イケメン君を振り回すなんてなかなかの子ね」
「ルミさんの孫だけど」
「――っ! 鈴ちゃん!?」
再び母親の手からヘアブラシが落ちる。
「知ってるのか?」
「会った事は無いけど、写真なら一度。子猫みたいな子だったけど違うの?」
「いや、子猫であってるよ。確か学園祭の時の写真が――ん?」
「今度は何?」
「話題の子猫からメッセージ」
「ふーん、仲いいんだ」
含み笑いの母親を横目に、メッセージの確認をする。
『いろいろあって動物園を飛び出して来てしまいました……。星崎君に駅で待っていてと伝言お願いできますか?』
何があったのだろうか。
文章の感じからすると、星崎から逃げた訳ではなさそうだ。
けれどこれは二人の問題。深堀せずに『了解』とだけメッセージを送ると、愛原から感謝を告げる可愛らしいスタンプが送られて来た。
誤解を生まないようにするため、愛原のメッセージをそのまま星崎に転送すると、感謝の言葉と共に、こちらも可愛らしいスタンプが送られて来た。
似た者同士だな……。
この調子なら過度に心配する必要はないだろう。
一息ついていると、ニヤついた母親と目が合った。
気恥ずかしくて近くにあったダウンを手に立ち上がる。
「ちょっと出かけて来る。母さんが出勤する前には帰って来るから」
「いいわよ別に。クリスマスなんだしナンパでもしてきなさい」
「……はいはい」
溜息交じりの返事を返し、逃げるように玄関を出た。
頬を刺す冷たい空気。
雪でも降りそうな空だ。
午後はどこを探そうか。
実家のアパートを出た俺は、当てもなく歩きはじめる。
そろそろ、いつもサボってタマゴサンドを食べていた時間だ。
もう一度公園に行ってみようか、それとも――。
目的地を決める為、スマホで地図アプリを開いた瞬間、画面にメッセージが浮かぶ。
愛原からだ。
何かあったのかと急いでメッセージを開くと、大量の猫の写真が現れた。
『公園で猫にあったよ。ちょっと小柄な気はするけど、探してる猫に似てないかな? もしかして兄妹だったりするかも。駅の近くの公園です』
心臓が跳ねる。
スマホの画像フォルダを漁り、何度も見比べた。
色や柄が似てはいるが、野良猫にしては毛並みも栄養状態も良く確信が持てない。
けれど、保護されて十分に食事を与えられているのだとしたら――。
会って確かめなくては!
スマホをポケットにしまい、走り出した。
通い慣れた公園のはずなのに、何だかとても遠くに感じる。
信号の数も、角を曲がる回数も変わらないのに……。
その感覚は公園を前にして更に加速した。
最後の交差点。
青信号が待ち遠しい。
早く――早く――早く――ん?
そわそわしながら、信号の向こうに見える公園を眺めていると、見覚えのある人物が飛び出てきた。
獅童?
クリスマスに全速力とは忙しい奴だ……。
まぁ、俺もだが――って!?
まて、アイツ、手に帽子持ってなかったか?
俺が良く知っている赤い帽子。
愛原!
すぐに愛原に電話をかける。
虚しく呼び出し音だけが響き、出る気配はない。
信号が青に変わったと同時に、全力で走り公園に入った。
ハトが一斉に飛び立つ。
そこに愛原の姿は無かった。
手にしていたスマホは未だに呼び出し中。
獅童を追いかけるしかない!
俺は無心で走り出した。
**********
**********
「さぁ、どうだろう」
「逃げられたって言ってたけど、イケメン君を振り回すなんてなかなかの子ね」
「ルミさんの孫だけど」
「――っ! 鈴ちゃん!?」
再び母親の手からヘアブラシが落ちる。
「知ってるのか?」
「会った事は無いけど、写真なら一度。子猫みたいな子だったけど違うの?」
「いや、子猫であってるよ。確か学園祭の時の写真が――ん?」
「今度は何?」
「話題の子猫からメッセージ」
「ふーん、仲いいんだ」
含み笑いの母親を横目に、メッセージの確認をする。
『いろいろあって動物園を飛び出して来てしまいました……。星崎君に駅で待っていてと伝言お願いできますか?』
何があったのだろうか。
文章の感じからすると、星崎から逃げた訳ではなさそうだ。
けれどこれは二人の問題。深堀せずに『了解』とだけメッセージを送ると、愛原から感謝を告げる可愛らしいスタンプが送られて来た。
誤解を生まないようにするため、愛原のメッセージをそのまま星崎に転送すると、感謝の言葉と共に、こちらも可愛らしいスタンプが送られて来た。
似た者同士だな……。
この調子なら過度に心配する必要はないだろう。
一息ついていると、ニヤついた母親と目が合った。
気恥ずかしくて近くにあったダウンを手に立ち上がる。
「ちょっと出かけて来る。母さんが出勤する前には帰って来るから」
「いいわよ別に。クリスマスなんだしナンパでもしてきなさい」
「……はいはい」
溜息交じりの返事を返し、逃げるように玄関を出た。
頬を刺す冷たい空気。
雪でも降りそうな空だ。
午後はどこを探そうか。
実家のアパートを出た俺は、当てもなく歩きはじめる。
そろそろ、いつもサボってタマゴサンドを食べていた時間だ。
もう一度公園に行ってみようか、それとも――。
目的地を決める為、スマホで地図アプリを開いた瞬間、画面にメッセージが浮かぶ。
愛原からだ。
何かあったのかと急いでメッセージを開くと、大量の猫の写真が現れた。
『公園で猫にあったよ。ちょっと小柄な気はするけど、探してる猫に似てないかな? もしかして兄妹だったりするかも。駅の近くの公園です』
心臓が跳ねる。
スマホの画像フォルダを漁り、何度も見比べた。
色や柄が似てはいるが、野良猫にしては毛並みも栄養状態も良く確信が持てない。
けれど、保護されて十分に食事を与えられているのだとしたら――。
会って確かめなくては!
スマホをポケットにしまい、走り出した。
通い慣れた公園のはずなのに、何だかとても遠くに感じる。
信号の数も、角を曲がる回数も変わらないのに……。
その感覚は公園を前にして更に加速した。
最後の交差点。
青信号が待ち遠しい。
早く――早く――早く――ん?
そわそわしながら、信号の向こうに見える公園を眺めていると、見覚えのある人物が飛び出てきた。
獅童?
クリスマスに全速力とは忙しい奴だ……。
まぁ、俺もだが――って!?
まて、アイツ、手に帽子持ってなかったか?
俺が良く知っている赤い帽子。
愛原!
すぐに愛原に電話をかける。
虚しく呼び出し音だけが響き、出る気配はない。
信号が青に変わったと同時に、全力で走り公園に入った。
ハトが一斉に飛び立つ。
そこに愛原の姿は無かった。
手にしていたスマホは未だに呼び出し中。
獅童を追いかけるしかない!
俺は無心で走り出した。
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