慌てて大神君の姿を探す。
けれど、声をかけるのは早々に諦めた。
教室の真ん中にある大神君の席に、クラスの男子が集まっていたからだ。
いつも寝てばかりなのに、何時の間に仲良くなっていたのだろう。
凄いな、大神君。
流石に割り込む勇気はなく、休み時間にでも声をかけようと思ったものの、いつでもどこでも居眠りをしている大神君に、声をかける隙など一時も無かった、
始業式。
ホームルーム。
午前の授業。
お昼休み。
何度もチャンスはあったはずなのに、気付けば午後の授業を迎えていた。
湧きあがる焦燥感。
次の体育の授業ならば、さりげなく声をかけられるかもしれない。
どんなに眠くても、体育の授業で居眠りは出来ないだろう。
着替えを済ませ、大神君の姿を探しながら体育館に入る。
なんだかストーカーみたいだと自嘲していると、背後から賑やかな声が聞こえて来た。
「もー、暑いのに体育とか信じられない」
「体育館なだけマシだよ。一応エアコンもあるし」
「でも動いたら汗でメイク崩れるじゃん、最悪!」
「んじゃ、怪我した事にして休んじゃえば?」
「あはは、誰かさんと一緒にしないでよ」
クラスメイトの一軍女子だ。
怪我の影響で、体育の授業が受けられない私への嫌味。
まだまだ盛り上がりそうだったが、授業開始のチャイムが鳴り解散となった。
いつもの事……。
気にしちゃいけない……。
そう言い聞かせながら準備運動を終えると、私だけ体育館の端へ移動する。
スコアボードなどを用意して、いつものように雑用係を請け負っていると、暑さで機嫌を損ねている一軍女子達とすれ違った。
「なんか、元気そうじゃん……」
――っ!?
作業の手が止る。
微かな声なのに聞き取れてしまった。
胸の奥が痛む。
悪口を言われたからでは無い。
全てを見透かされているような気がしたからだ。
無意識に両手が帽子に伸びる。
「どうした愛原、大丈夫か? 体調悪いなら無理するな、見学してろ」
体育教師の優しさが、棘のように胸に突き刺さった。
いたたまれなくなり、小さく返事をして邪魔にならない場所へ移動する。
私は優しくされるような人間じゃない。
嫌味を言われるのは当然の報い。
だって、この傷は――。
「きゃぁぁぁ!」
突然、女子生徒達の黄色い声が響き渡り我に返る。
何事かと体育館を見渡すと、
「ヤバイ! カッコよすぎ!」
女子達は授業そっちのけで、バスケ中の男子達に熱烈な歓声を上げていた。
お目当てはクラスメイトの星崎威月君。
アイドルも顔負けの容姿を鼻にかけず、誰にでも優しくて気さくで明るい人。
まぁ、私は話したことが無いから勝手なイメージなのだけれど……。
星崎君が放ったボールがゴールに吸い込まれると同時に、女子達の歓喜がピークに達した。
声援に応えるように、星崎君がこちらに向かって手を振る。
屈託のない爽やかな笑顔。
もしも下宿するのが大神君じゃなくて星崎君だったら、こんなに悩まなくても良かったかもしれない。
――なんて事を考えながら、気だるげにボールの行方を目で追っていると、
「ねぇ、愛原さん」
不意に、鋭くも上品な女性の声が降って来る。
恐る恐る顔を上げると、入学してから一度も話したことが無い、クラスメイトの綾瀬苺香さんが立っていた。
けれど、声をかけるのは早々に諦めた。
教室の真ん中にある大神君の席に、クラスの男子が集まっていたからだ。
いつも寝てばかりなのに、何時の間に仲良くなっていたのだろう。
凄いな、大神君。
流石に割り込む勇気はなく、休み時間にでも声をかけようと思ったものの、いつでもどこでも居眠りをしている大神君に、声をかける隙など一時も無かった、
始業式。
ホームルーム。
午前の授業。
お昼休み。
何度もチャンスはあったはずなのに、気付けば午後の授業を迎えていた。
湧きあがる焦燥感。
次の体育の授業ならば、さりげなく声をかけられるかもしれない。
どんなに眠くても、体育の授業で居眠りは出来ないだろう。
着替えを済ませ、大神君の姿を探しながら体育館に入る。
なんだかストーカーみたいだと自嘲していると、背後から賑やかな声が聞こえて来た。
「もー、暑いのに体育とか信じられない」
「体育館なだけマシだよ。一応エアコンもあるし」
「でも動いたら汗でメイク崩れるじゃん、最悪!」
「んじゃ、怪我した事にして休んじゃえば?」
「あはは、誰かさんと一緒にしないでよ」
クラスメイトの一軍女子だ。
怪我の影響で、体育の授業が受けられない私への嫌味。
まだまだ盛り上がりそうだったが、授業開始のチャイムが鳴り解散となった。
いつもの事……。
気にしちゃいけない……。
そう言い聞かせながら準備運動を終えると、私だけ体育館の端へ移動する。
スコアボードなどを用意して、いつものように雑用係を請け負っていると、暑さで機嫌を損ねている一軍女子達とすれ違った。
「なんか、元気そうじゃん……」
――っ!?
作業の手が止る。
微かな声なのに聞き取れてしまった。
胸の奥が痛む。
悪口を言われたからでは無い。
全てを見透かされているような気がしたからだ。
無意識に両手が帽子に伸びる。
「どうした愛原、大丈夫か? 体調悪いなら無理するな、見学してろ」
体育教師の優しさが、棘のように胸に突き刺さった。
いたたまれなくなり、小さく返事をして邪魔にならない場所へ移動する。
私は優しくされるような人間じゃない。
嫌味を言われるのは当然の報い。
だって、この傷は――。
「きゃぁぁぁ!」
突然、女子生徒達の黄色い声が響き渡り我に返る。
何事かと体育館を見渡すと、
「ヤバイ! カッコよすぎ!」
女子達は授業そっちのけで、バスケ中の男子達に熱烈な歓声を上げていた。
お目当てはクラスメイトの星崎威月君。
アイドルも顔負けの容姿を鼻にかけず、誰にでも優しくて気さくで明るい人。
まぁ、私は話したことが無いから勝手なイメージなのだけれど……。
星崎君が放ったボールがゴールに吸い込まれると同時に、女子達の歓喜がピークに達した。
声援に応えるように、星崎君がこちらに向かって手を振る。
屈託のない爽やかな笑顔。
もしも下宿するのが大神君じゃなくて星崎君だったら、こんなに悩まなくても良かったかもしれない。
――なんて事を考えながら、気だるげにボールの行方を目で追っていると、
「ねぇ、愛原さん」
不意に、鋭くも上品な女性の声が降って来る。
恐る恐る顔を上げると、入学してから一度も話したことが無い、クラスメイトの綾瀬苺香さんが立っていた。

