動物園なんて、最後に来たのはいつだっただろうか……。
 
遠い記憶を呼び起こしながら、カラフルなゲートをくぐる。
途端に動物たちの元気な声が聞こえ、薄れていた記憶が蘇った。
 
あぁ、そうだ。
小学校の遠足だ。
あの時は確か――、
 
不意に友達だった子を思い出してしまい、気持ちが滅入る。
小学生時代に一番仲が良かった女の子。
私が死なせてしまった猫の飼い主。
花宮陽華(はなみやようか)の顔が脳裏に蘇った。

陽華ちゃん……。
 
不穏な記憶に心が呑みこまれていく。
消し去ろうと(かぶり)を振っても、どんどん記憶が溢れて来た。

ダメだ。
今思い出したら絶対にダメ。
もっと今を楽しまないと!
 
なんとか記憶の蓋を閉めようと躍起になっていると、隣を歩いていた星崎君がピタリと足を止める。

「愛原さん、大丈夫?」
「――っ!? えっと……」
「何か考え事してるよね。ずっと……」

星崎君の優しい声と表情に、闇に沈んでいた心が掬い上げられた。
魔法――という言葉が一番しっくりくる感覚。
陰鬱な小学生時代の記憶を一気に吹き飛ばしてくれた。

「ごめん、ちょっと昔の事を思い出してて……」
「あ、いや、謝らないで、俺も気になる事があって少しぼんやりしてたから」
「気になる事って?」
「大神の事だよ。あいつの用事って猫探しなんでしょ?」
「知ってるの?」
「うん。けど、野良猫って聞いてたから、遊びの誘いを断るほどだとは思って無くて――」
 
後悔を含んだ声に少しホッとする。
私も同じ気持ちだからだ。

「大神君にとっては大事な友達みたいだよ」
「だったら一人で探すなんて無茶な事しないで、ネットとか使って大々的にやった方がいいと思うんだけどなー」
「自分で見つけなきゃ意味ないって思ってるんじゃないかな」
「気持ちは分からなくもないけど、ウチの猫も昔居なくなった事があって、ネット使ったら奇跡的に見つかったんだよ――でもまぁ、野良は難しいか……」

星崎君が悩ましげに首を傾げると、檻の向こうのライオンがマネするように首を傾げた。その姿が可愛くて、二人で同時にスマホを構える。

「星崎君、猫飼ってるんだね」
「うん」
「どんな猫?」
「あ、写真見る? スマホに何枚か――」

私の問いかけに、星崎君はとても嬉しそうにスマホを操作し始めた。
その表情から、猫が大好きな事が伝わってくる。
星崎君の新たな一面が知れて嬉しい反面、どうしたって猫からは逃れられないのだと悟り気分が沈んだ。

自分で振った話題なのに……。
 
この後、どんな顔をして猫の話をしたらよいのか、悩みながら星崎君の顔を覗き込む。

「星崎君?」
 
何かあったのか、意気揚々とスマホを操作していた手が制止していた。