クリスマス当日。
隣街の動物園に行く為に最寄り駅に向かう。
雪こそ降っていないものの、そよぐ風は頬を刺すような冷たさだ。
そんな寒空の下、スマホ片手に私を待っていたのは、
「おはよう。愛原さんは赤が似合うね」
暖かそうな白いダウンを纏った星崎君だ。
「あ、ありがとう。赤いコート、派手じゃないかな?」
「ううん、全然。かわいいよ」
「そ、そう。よかった。家族には赤ずきんちゃんみたいって言われちゃって……」
「あぁ、確かに――隣に黒ずくめのオオカミさんが居るから尚更だよね」
笑顔を無くした星崎君は、苛立つような声で私の隣を睨む。
「おはよ、愛しき我が友よ」
大神君は気にするそぶりも無く、無表情で友人への愛を口にした。
星崎君は溜息を吐く。
「予定があるんじゃなかったのか?」
「俺の予定も隣街なんだよ」
「それなら俺にも連絡欲しかったな」
星崎君は眉間に深いシワを作り、大神君を見つめた。
「うーん、サプライズ? 星崎の喜ぶ顔が見たくて」
「そう思うなら一緒に動物園に来ればいいだろ?」
急に寂しげな表情を見せる星崎君に、大神君も勢いを無くす。
「悪い、今日はごめん」
本当に申し訳なさそうな姿に心が揺れた。
行方不明の猫を一人で探すなんて、なんて途方もない事なのだろう。
本当は動物園よりも――、
「大神君、やっぱり私にも手伝わせて」
「いや、これだけは自分で何とかしたい。それに、愛原にもやる事があるだろ?」
大神君は私の頭を優しく撫でる。
そうだった。
私には帽子を卒業するという目標があるんだった。
「そうだったね。ごめん」
「いや、俺の方こそ悪かった。強引な事して……」
「ううん、大神君は悪くないよ。ただちょっと、もう少し時間が欲しいだけ」
「あぁ、愛原のペースで頑張ればいい」
「うん」
無意識に笑みが浮かんだ。
やっと消えた小さなわだかまり。
それなのに、一緒に遊べないなんて……。
高校生でいられる間に叶うだろうか。
途方もない未来に思いを馳せていると、
「なんか疎外感……」
星崎君の呟きがこぼれ落ちた。
大神君の表情が意気揚々と輝き出す。
「心配するな、電車の中でちゃんと相手してやるから」
大神君は逃げるように言い放ち、駅舎の中へと向かって行った。
その後をついて行く星崎君の足取りがとても軽い。
いつの間にか二人は友達から親友へと変わっていたようだ。
「愛原さん、電車来ちゃうよ」
「う、うん」
なんだか二人が羨ましい。
親友……。
胸の奥でもう一人の自分が囁いた。
私にも出来るだろうか。
小さな期待を抱きながら、二人の背中を追った。
☆☆☆

