「星崎と天城は絶対に大丈夫だ」
「え? どうしてその二人?」
 
納得できない様子の愛原。
星崎の秘めたる思いを話しそうになったが、必死でこらえて笑顔を作った。

「星崎の事は説明するまでも無いだろ。良い奴だし、悪い話を一つも聞いた事が無い」
「うん……そうだね。でも天城さんは? 私、天城さんとは今日初めてちゃんと話したよ」
「それはまぁ――勘かな」
「勘!?」
「あぁ、愛原の事、凄く気にしてたから」

それと、あの目。
星崎ファンに向けた切っ先のような視線は、男の俺でも足がすくんだ。
思い出しただけでも背筋が伸びる。

天城の残像に翻弄されるだらしない俺の隣で、愛原はぼんやりと宙を見つめていた。

「天城さん、どうしてあんなに心配してくれたんだろう。やっぱりクラス委員だからかな?」
「いや、入学してから皆勤だったクラスメイトが、いきなり一週間も休んだら誰だって気になるだろ。おまけに怪我人設定ついてるからな」
「心配するような怪我じゃないのに……」

泣きそうな声。
震える小さな背中。
愛原の肩には、俺には想像できない程に大きくて重い嘘がのし掛かっていた。
俺は再び愛原の頭に手を乗せ、優しく弾ませる。

「それなら、早いとこ帽子卒業しないとな」
「そう……だよね……」
「さっきの話、俺は本気だから」
「――っ!?」

覚悟を決めたのか拒んでいるのか、愛原は制服のスカートをグッと掴んだ。
今日はもう、この話題は辞めた方が良さそうだ。
俺は気持ちを切り替えるように勢いよく立ち上がる。

「大丈夫、無理強いはしない。落ち着いたらまた後で話そう」
「うん……」

頼りない返事だったが、首は大きく縦に揺れた。

「じゃ、また後でな」
「あ、えっと……今日はありがとう」

恥じらいを含んだ感謝の言葉。
俺は精一杯の笑顔を返し、保健室のドアを開ける。
 
少しは信用してもらえたのだろうか。
嬉しい反面、余計に心が痛んだ。
俺はこの先、愛原を今以上に傷つけてしまうかもしれない。
けれど俺は真実を知ってしまった。
知ってしまったからには放っておくことは出来ない。

愛原の為にも、おじさんの為にも、ルミさんの為にも……。

「愛原……」
「ん?」
「愛原は何も悪くない」
「え?」
「だから、あんまり自分を責めるなよ」
 
そう言うと、返事も聞かずに保健室を出た。
途端に肩がずっしりと重くなる。

あぁ、反吐が出る。
上から目線で何様だよ俺は。
何も悪くないだんて、それは俺が欲しい言葉だ。

本当に報いを受けなければいけないのは、俺の方なのに――。


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