「その話なら、この前聞いたけど……」
「いや、恥ずかしくてケンカの原因を言えなかった」
「原因? 友達を守る為だったんでしょ?」
「そう、その友達ってのが――」
そう口にしながら、愛原が手にしているスマホを指さした。
愛原は暫く考え込んでいたが、やがて目を見開く。
「も、もしかして、友達って――猫!?」
驚嘆する愛原を前に、俺の頭が熱くなって行くのが分かった。
湧き上がる羞恥心を抑え込み、愛原の瞳を力強く見つめる。
「アイツら、俺の目の前で猫を蹴り飛ばしたんだ。それで喧嘩になった」
「……そんな……酷い」
「しかも、アイツらは猫一匹でブチギレた俺を馬鹿にし始めて、余計に腹が立って抑えが利かなくなった」
話しながら自分の拳を眺めた。
押し戻そうとする柔らかな肌。
守ろうとする硬い骨。
忘れる事の出来ない気味の悪い感触。
人を殴ったのは初めてだった。
思い出すだけで手が震える。
「大丈夫?」
愛原は心配そうに、猫の動画が流れるスマホを俺に差し出した。
無言で受け取った俺は、動画を直ぐに止めてポケットに終う。
罪悪感から直視する事が出来なかった。
「あの日以来、猫は姿を見せなくなった。思い切り蹴られてたし、もしかしたら、もう――」
「生きてるよ。ぜったい生きてる。どこかに隠れてるだけだよ!」
愛原の力強い声が俺を圧倒する。
やっと、いつもの可愛らしい愛原に戻ってくれた。
無意識に笑みがこぼれる。
「だといいな……ありがとう」
感謝の気持ちから、思わす愛原の頭に手が伸びた。だが、帽子の真実が過り躊躇してしまう。
愛原は俺の腕の行先を眺めながら、帽子を深くかぶり直した。
「私の事故も、きっかけは猫だった。友達が飼ってた大切な猫」
「……そう……なんだ……」
――なんて、白々しい相槌を返す自分に嫌気がさす。
全部、ルミさんから聞いて知っているからだ。
何も知らない愛原は、淡々と話し続ける。
「友達の家に遊びに行った時にね、私の不注意で子猫が外に出ちゃったの。危ないから絶対に連れて帰らなきゃと思って、焦って抱き上げて、でも逃げられて、だからまた追いかけて――」
「それで事故に?」
頷く愛原。
うつむいているせいか、どんどん体が小さくなって行く。
「私は軽い怪我で済んだけど、猫は死んじゃって、友達が私のせいだってクラスの子達に……」
悲惨な光景が脳裏に浮かんだ。
蔑むような目。
辛辣な言葉。
孤独な教室。
次第に怒りが込み上げる。
「そんな奴、最初から友達じゃないだろ」
「友達だよ。猫が大好きな優しい子だった。きっと耐えられなかったんだよ。猫が死んじゃった事」
「ちょっとお人好しすぎないか?」
「でも、私のせいなのは本当の事だから……その証拠に……」
愛原は恥じらうように帽子を脱いだ。
綺麗な栗色の髪。
僅かに傷跡が見えたが、事情を知らなければ気にも留めないような小さな物だ。
問題は――、
「いや、恥ずかしくてケンカの原因を言えなかった」
「原因? 友達を守る為だったんでしょ?」
「そう、その友達ってのが――」
そう口にしながら、愛原が手にしているスマホを指さした。
愛原は暫く考え込んでいたが、やがて目を見開く。
「も、もしかして、友達って――猫!?」
驚嘆する愛原を前に、俺の頭が熱くなって行くのが分かった。
湧き上がる羞恥心を抑え込み、愛原の瞳を力強く見つめる。
「アイツら、俺の目の前で猫を蹴り飛ばしたんだ。それで喧嘩になった」
「……そんな……酷い」
「しかも、アイツらは猫一匹でブチギレた俺を馬鹿にし始めて、余計に腹が立って抑えが利かなくなった」
話しながら自分の拳を眺めた。
押し戻そうとする柔らかな肌。
守ろうとする硬い骨。
忘れる事の出来ない気味の悪い感触。
人を殴ったのは初めてだった。
思い出すだけで手が震える。
「大丈夫?」
愛原は心配そうに、猫の動画が流れるスマホを俺に差し出した。
無言で受け取った俺は、動画を直ぐに止めてポケットに終う。
罪悪感から直視する事が出来なかった。
「あの日以来、猫は姿を見せなくなった。思い切り蹴られてたし、もしかしたら、もう――」
「生きてるよ。ぜったい生きてる。どこかに隠れてるだけだよ!」
愛原の力強い声が俺を圧倒する。
やっと、いつもの可愛らしい愛原に戻ってくれた。
無意識に笑みがこぼれる。
「だといいな……ありがとう」
感謝の気持ちから、思わす愛原の頭に手が伸びた。だが、帽子の真実が過り躊躇してしまう。
愛原は俺の腕の行先を眺めながら、帽子を深くかぶり直した。
「私の事故も、きっかけは猫だった。友達が飼ってた大切な猫」
「……そう……なんだ……」
――なんて、白々しい相槌を返す自分に嫌気がさす。
全部、ルミさんから聞いて知っているからだ。
何も知らない愛原は、淡々と話し続ける。
「友達の家に遊びに行った時にね、私の不注意で子猫が外に出ちゃったの。危ないから絶対に連れて帰らなきゃと思って、焦って抱き上げて、でも逃げられて、だからまた追いかけて――」
「それで事故に?」
頷く愛原。
うつむいているせいか、どんどん体が小さくなって行く。
「私は軽い怪我で済んだけど、猫は死んじゃって、友達が私のせいだってクラスの子達に……」
悲惨な光景が脳裏に浮かんだ。
蔑むような目。
辛辣な言葉。
孤独な教室。
次第に怒りが込み上げる。
「そんな奴、最初から友達じゃないだろ」
「友達だよ。猫が大好きな優しい子だった。きっと耐えられなかったんだよ。猫が死んじゃった事」
「ちょっとお人好しすぎないか?」
「でも、私のせいなのは本当の事だから……その証拠に……」
愛原は恥じらうように帽子を脱いだ。
綺麗な栗色の髪。
僅かに傷跡が見えたが、事情を知らなければ気にも留めないような小さな物だ。
問題は――、

