オレンジ色の光で目が覚めた。

いつの間に眠ってしまったのだろう。
慌てて体を起こすが、纏っている服を確認して絶望した。
 
昨日、公園から逃げるように帰って来た後、制服を着たままベッドに潜り込んだのだ。

朝日を見た事までは覚えてるんだけど……。
 
窓の外で流れる夕方を知らせるチャイムが、寝ぼけた頭に記憶を蘇らせる。
脳裏に大神君の驚く顔が浮かんだ。
よりによって一番見られたくない人に見られるなんて。

最悪だ。

仲良くなれると思ったのに……。
友達になれると思ったのに……。

重い体をベッドから引きずり出し、皺だらけの制服を脱ぎ捨てる。
姿見の前に立って帽子の無い頭に手を伸ばした。
 
これが本当の私の姿。

事故から数日後、突然現れた体の異変。
夢を見ているのだと思った。
 
こんな事が現実で起きるなんて……。
 
伸ばした手に触れる異様な感覚。
髪に紛れるように存在するソレは、人間の物では無い。
 
これは――。

獣の耳。

白、黒、茶色。
綺麗な三色。

毛色を見て直ぐに正体が分かった。
友達が飼っていた猫だと。
私が死なせてしまった猫だと。
 
忘れるなと言っているのだ。
 
警告か。
呪いか。
恨みか。
 
誰にも知られたくない。
誰にも見られたくない。
許される事の無い罪の印。

大神君はどう思っただろうか。
気味が悪いと思っただろうか。
 
誰かに、話しているだろうか……。
 
ううん、きっと大丈夫。
 
大神君は無愛想だけど、ご飯の前には手を合わせて感謝をするし、みっちゃんやお父さんに対しても礼儀正しい。
学校でも問題を起こしたことは無いし、喧嘩をしている姿を見た事もない。
 
何より、私を助けてくれた人だ。
 
そんな人が裏切る訳――。
 
裏切る?
違う。
そもそも私達は友達にもなっていない。
私が勝手に大神君に理想を抱いているだけだ。
期待してはいけない。
誰も信じてはいけない。

でも……。
 
鏡に映る自分の姿がぼんやりと滲んだ。
どうしてこんなに悲しいのだろう。
 
鏡の前でぼやける自分に問いかけていると、部屋の前に気配を感じて慌てて瞼を擦った。

「鈴、入っていい?」

心配そうなお母さんの声。

「うん……」

私は返事をしながら、誤魔化すように部屋着に着替え始める。

「あ、ごめん。着替えてたのね」
「大丈夫……」
「鈴、昨日から何も食べてないでしょ。ここ、置いておくから、お腹すいたら食べてね」
「ありがとう」
 
囁くように返事をすると、お母さんは何も聞かずに部屋を出て行った。
本当は気になって仕方ないはずなのに、私から話すのを待っているのだろう。
有難いような縋りたいような、もやもやとした感覚が胸を襲った。