やっぱり休みか……。
 
翌日、覚悟を決めて学校へ行くが、愛原は休みだった。
落胆しながらも縋るような思いでスマホを取り出すが、今更ながら連絡先を聞いていない事に気付き溜息が出る。
連絡先を知っていそうな奴を探すため、愛原の席の近くを眺めていると、

「お、おい、なんかこっち見てるぞ」
「愛原が休んでるから、お前がなんかしたと思ってんじゃないのか?」
 
愛原の帽子を取ろうとしていた山本が、怯えながら俺を見つめていた。
なんだか居心地が悪くなり、そそくさと教室を出る。
 
休み時間の度にそんな事を繰り返していると、あっという間に昼休みを迎えていた。
 
さて、どうしたものか……。
 
己の社交性の無さに呆れながら購買へ向かう。
手にしたスマホの画面にはルミさんの番号。
困った事があったらいつでも連絡してと言われたが、今日は朝早くからパートに出ていて電話もメッセージも気が引けた。

家に帰るまでお預けか。

落ち着かない気持ちのまま、購買にてタマゴサンドを探す。
こんな時に限って売り切れていたりするもので、代りに満腹感が味わえそうな炭酸水を買って屋上に上がった。

風が冷たいせいか人の気配はない。
プチプチと炭酸が弾ける音だけを聞きながら空を見上げた。

無心でいたつもりなのに、昨夜、ルミさんから聞かされた大事な話が頭を過る。

正直、聞いた事を後悔した。

俺が思っている以上に、愛原を傷付けてしまったと感じたからだ。

これから、どうするべきか……。

ぼんやりと考えながら、喉の奥に流れて行く小さな刺激に耐えていると、突然、視界の端に影が落ちる。

「昼飯くわねーの?」

俺の顔を覗き込んでいたのは、コンビニ袋を持った星崎だった。

「タマゴサンドが売り切れだったから」
「あー、お前毎日食ってるよな、好きなのか?」
「いや、戒め」
「なんだそりゃ、何かよくわかんねーけど、これで良かったら食えよ」

星崎は困り顔でコンビニ袋を漁ると、俺の膝の上に透明なプラケースを乗せる。
中には白くて丸い物体。

「ゆで卵?」
「時々食べたくなるんだよなー、それ。あ、いらないなら返せよ」
「いや、食べる。ありがとう」

昼食を恵んでくれた星崎に向かい、頂きますと言って手を合わせると、屋上に爽やかな笑い声が響いた。

「お前さ、顔に似合わねー事するよな。ははは」
「小学生の時は毎日やってただろ」
「だなー、俺は最近サボり気味」
 
星崎はケラケラと笑いながら、コンビニ袋から甘ったるそうな菓子パンを取り出して盛大にかぶりつく。

「――で、お前は俺にゆで卵を恵みにわざわざ来たのか?」
「そんな訳あるかよ。愛原さんが休んでるから、どうしてかと思って聞きに来た」
「なんで俺に?」
「仲良いから」
 
その声に嘘偽りは無かった。
星崎の目にはそう見えるらしい。
だが実際は連絡先さえ知らない仲だ。