緊張で声が震えた。
ルミさんは無言で帽子の出来栄えを確認している。
やはり、聞いてはいけない事だったようだ。
頭の中で取り繕う準備をしていると、
「――そう、驚いたでしょ?」
ルミさんは静かに立ち上がり、お茶の準備を始める。
聞いて良い話なのだと理解し、俺はその場に腰を下ろした。
「はい、一瞬、何が起きているのか分からなかったんですけど、愛原に逃げられて事の重大さに気が付きました」
そう返事をしてうつむいた先に、可愛らしい犬柄のティーカップが差し出される。
ルミさんの手には猫柄。
愛原のお気に入りのカップだ。
ルミさんは猫柄カップを愛おしげに見つめる。
「本当は、一日でも早く、詳しい人の所へ相談に行くべきなんだろうけどね」
「行ってないんですか?」
「あの子、事故が原因で人間関係に過敏なってるから、騙して連れて行くような事もしたく無くてね」
「それで帽子を?」
ルミさんはゆっくりと頷いた。
「帽子のおかげで中学は卒業出来たけど、この先もずっと帽子をかぶり続ける訳にもいかないでしょ? 大神君に見られたのはいいきっかけだったかもしれないわね」
落ち着いた様子で紅茶を啜るルミさん。
俺に何かを期待しているように見えた。
「俺は何もできませんよ。今日だって、本当なら追いかけるべきだったんです。けど、俺はまだ愛原に信用されてないから」
「そう? そんな事は無いと思うけど」
興味深げな瞳が俺を射抜く。
「ルミさんにはどう見えてるんですか? 俺たち」
「とっても仲がよさそうに見えてるわよ」
それは――、
「友達みたいにって事ですか?」
俺の疑問に、ルミさんはニッコリ笑って再び紅茶を啜る。
懐かしい感情が胸に広がった。
友達……か。
愛原を救う事が出来れば、もしかしたら俺も――。
「仲直り、出来ると思いますか?」
「ケンカしてる訳じゃないんだから大丈夫よ――と、言いたいところだけど、鈴が学校に来てくれなきゃ無理よね……」
「どういう事ですか?」
「大神君の事を悪く言うつもりはないけど、帽子の秘密が学校で広まる事に怯えてるんじゃないかと思ってね」
「誰かに言うなんて俺はそんな事!」
「もちろん私は分かってるわよ。けどね、あの子は事故が原因で人を信じられなくなってるから」
「何があったんですか?」
そう問いかけると、ルミさんは躊躇いながらうつむいた。
「鈴は友達の飼い猫を追いかけて事故に遭ったのよ。鈴のケガは大した事が無かったんだけど、猫の方は亡くなってしまってね」
「そうだったんですか」
「それで友達と溝が出来ちゃって、学校に行かなくなったの。その頃からよ、鈴が――」
そこまで言うと、ルミさんは何故か話すのを止めて考え込み始めた。
「ルミさん?」
「ごめん大神君、私、大事な事を言い忘れてたわ」
「大事な事?」
「えぇ、実はね――」
★★★
ルミさんは無言で帽子の出来栄えを確認している。
やはり、聞いてはいけない事だったようだ。
頭の中で取り繕う準備をしていると、
「――そう、驚いたでしょ?」
ルミさんは静かに立ち上がり、お茶の準備を始める。
聞いて良い話なのだと理解し、俺はその場に腰を下ろした。
「はい、一瞬、何が起きているのか分からなかったんですけど、愛原に逃げられて事の重大さに気が付きました」
そう返事をしてうつむいた先に、可愛らしい犬柄のティーカップが差し出される。
ルミさんの手には猫柄。
愛原のお気に入りのカップだ。
ルミさんは猫柄カップを愛おしげに見つめる。
「本当は、一日でも早く、詳しい人の所へ相談に行くべきなんだろうけどね」
「行ってないんですか?」
「あの子、事故が原因で人間関係に過敏なってるから、騙して連れて行くような事もしたく無くてね」
「それで帽子を?」
ルミさんはゆっくりと頷いた。
「帽子のおかげで中学は卒業出来たけど、この先もずっと帽子をかぶり続ける訳にもいかないでしょ? 大神君に見られたのはいいきっかけだったかもしれないわね」
落ち着いた様子で紅茶を啜るルミさん。
俺に何かを期待しているように見えた。
「俺は何もできませんよ。今日だって、本当なら追いかけるべきだったんです。けど、俺はまだ愛原に信用されてないから」
「そう? そんな事は無いと思うけど」
興味深げな瞳が俺を射抜く。
「ルミさんにはどう見えてるんですか? 俺たち」
「とっても仲がよさそうに見えてるわよ」
それは――、
「友達みたいにって事ですか?」
俺の疑問に、ルミさんはニッコリ笑って再び紅茶を啜る。
懐かしい感情が胸に広がった。
友達……か。
愛原を救う事が出来れば、もしかしたら俺も――。
「仲直り、出来ると思いますか?」
「ケンカしてる訳じゃないんだから大丈夫よ――と、言いたいところだけど、鈴が学校に来てくれなきゃ無理よね……」
「どういう事ですか?」
「大神君の事を悪く言うつもりはないけど、帽子の秘密が学校で広まる事に怯えてるんじゃないかと思ってね」
「誰かに言うなんて俺はそんな事!」
「もちろん私は分かってるわよ。けどね、あの子は事故が原因で人を信じられなくなってるから」
「何があったんですか?」
そう問いかけると、ルミさんは躊躇いながらうつむいた。
「鈴は友達の飼い猫を追いかけて事故に遭ったのよ。鈴のケガは大した事が無かったんだけど、猫の方は亡くなってしまってね」
「そうだったんですか」
「それで友達と溝が出来ちゃって、学校に行かなくなったの。その頃からよ、鈴が――」
そこまで言うと、ルミさんは何故か話すのを止めて考え込み始めた。
「ルミさん?」
「ごめん大神君、私、大事な事を言い忘れてたわ」
「大事な事?」
「えぇ、実はね――」
★★★

