「……やっぱり変だよね、ずっと帽子なんて」

「いや、変とかじゃなくて、いつも体育の授業を見学してるから、まだ痛みとかあったりするのかなって……」
 
大神君の疑問に、クラスメイトの女子達を思い出して気持ちが沈んだ。

そうだよね。
誰だってそう思うよね。

「あ、あのね、普段は大丈夫なんだけど、運動をするとたまに痛む時があって、それで見学させてもらってるの」
「後遺症ってやつか?」
「たぶん……」
「そっか、大変だな」
「うん……」
 
――嘘だ。
確かに時々、思い出したかのように痛む事はあるけど、運動は問題なく出来る。
私が体育の授業を見学しているのは、帽子が脱げてしまう可能性があるからだ。
 
この傷跡は、絶対に見られてはいけない。
もしも見られてしまったら――、

「――ら、愛原?」
「え?」
「着いたぞ」

立ち止まった大神君の正面には、住み慣れたマンション。
二階の自宅に明かりは無い。
言葉に出来ない寂しさが込み上げて、ダイフクの体を撫でまわした。

「送ってくれてありがとう。気を付けて帰ってね」
「あぁ、また来週、学校でな」
「うん、また来――え? 来週?」
「俺、土日は実家に帰る事にしてるから」
「そうなんだ。そうだよね、お母さんも寂しいだろうしね」
「いや、ちょっとやり残したことがあって」
「やり残したこと?」
「いなくなった友達を探さないと……」

寂しそうに言って、大神君もダイフクを撫ではじめた。
揺らぐ瞳。
ダイフクを撫でる手に元気がない。
本当に大切な友達なのだという事が良く分かった。

羨ましい……。

「見つかるといいね」
「……ん、ありがとう」



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