「まだ食べられないわよー」
「いえ、そうではなくて……」
 
言葉を濁す大神君に、みっちゃんは表情を生き生きとさせた。
持っていた箸も楽しそうに上下する。

「なぁーに? 恋愛相談? それなら遠慮なくどーんと聞いてちょうだい!」
「すみません、恋愛相談ではないです」
「あら残念、じゃあなーに?」
「ウチのクラスの星崎と知り合いだって聞いたんですけど……」
「ほしざき……?」
 
みっちゃんは首を傾げながら土鍋に蓋を乗せた。

星崎? 星崎って、あの女子に大人気の星崎君?
みっちゃんと知り合いなの?
どういう事?

聞きたい事はどんどん溢れて来るのに、何一つ言葉にすることが出来なかった。
大神君も、ただ黙って答えを待っている。
煮えたぎる鍋の音だけが響く中、みっちゃんが何かを思い出したように手を叩いた。

「あっ! もしかして星崎威月君の事?」
「はい」
「そっか、同じクラスだったのね。元気にしてる?」
「はい、サッカー部のエースで女子に大人気です」
「へー、凄いわね。中学の頃は大人しくて運動が得意な印象は無かったのに、分からないものね」
 
懐かしむみっちゃんの言葉に、胸の奥がモヤモヤした。
 
中学の時から知ってるんだ……。
 
二人の関係が気になって、大神君の更なる追究を待つ。
けれど、聞こえて来たのは土鍋の蓋が震える音だけだった。
 
頼みの大神君は、訝しげな顔で何やら考え込んでいる。
 
突如訪れた無言の時間。
絶えられずに私が話題を引き継いだ。

「どうして星崎君の事を知ってるの?」

深い意味の無い純粋な疑問を口にしただけなのに、みっちゃんは企むような笑みを浮かべる。

「うーん、教えてあげてもいいんだけど、どうしようかな……」
「え?」
「星崎君に直接聞いてみるってのはどう? 同じクラスなんでしょ?」

意地悪な顔で提案するみっちゃん。
私を困らせたい時に見せる顔だ。
  
「そ、それは……」
「嫌なの?」
「い、嫌とかじゃなくて、星崎君とは話したことないし、な、なんか緊張する」

まだ何も起きていないのに、想像しただけで鼓動が早くなる。
落ち着こうと胸を撫でる私を見て、みっちゃんは溜息を吐いた。
 
「その人見知り、何とかしないといつまでたっても恋人出来ないわよ」
「――っ!? こ、恋人って! みっちゃん、急にどうしたの!?」
「ふふふ、ごめんごめん。でも、せっかくだから星崎君に教えてもらいなさい。私からの宿題ね」
 
悪気のない無邪気なみっちゃんの笑顔。
そんな楽しげな顔を見せられてしまっては、文句も言えない。
私はそれ以上追究する事を止めたが、大神君はまだまだ聞きたい事があるようで、訝しげな顔のままみっちゃんの方に体を向けた。