そうか、星崎には気になる子がいるのか、青春だな。
などとほのぼのとした気持ちになっていると、女子達が急に声を潜ませた。
盗み聞きをする趣味は無いが、何だか気になって精神を研ぎ澄ませてしまう。
 
だが、直ぐに後悔した。

「――あの子、最近大神と仲良いみたいだよ」
「大神と?」
 
予想していなかった自分の名前が聞こえ、起きている事を気付かれないように息を殺す。
冷や汗が流れた。
 
俺と仲が良いと思われる女子なんて――

「私、今朝見ちゃったんだよね、大神があの子に何か渡してる所」
「何それ! ちょっと詳しく教えて!」
 
沈んで行く俺の感情とは逆に、女子達のテンションは上がって行く。
俺の存在を知ってか知らずか、ケラケラと楽しそうだ
 
まぁ、そうなるよな……。
 
弁当、もっと人目につかない所で渡せば良かったな。
これじゃ、愛原の友達作りを俺が邪魔してるみたいじゃないか。

込み上げる罪悪感。
眠気を失っている瞳は自然と窓際へ向かう。
青空を背にした星崎の姿が目に入った。
星崎は友人たちの輪に混ざりながらも、心ここに非ずといった様子でぼんやりしている。

女子達の言葉が頭を過った。
 
星崎が愛原を……?

確認しようと体を起こしたその時、俺の机の前を一人の男子生徒が駆け抜け、その勢いのままに星崎と肩を組んだ。

「どうした星崎、愛原の事じーっと見て」
「な、なんだよいきなり」
「答えろよ、見てたんだろ?」
 
迷惑そうな星崎を余所に、ニヤニヤと気味の悪い笑顔を見せる男子。
確か、山本ってヤツだったかな。
毎度毎度、休み時間をふざけ倒して終える小学生みたいな奴だ。
誰にでも優しいと評判の星崎も、怪訝な表情を浮かべている。

「ちょっと心配で見てただけだよ」
「心配? 正直に気になるって言えよ」
「まぁ、気になると言えば気になるかな、中学の頃から一人でいる姿しか見た事なかったから、友達作らないのかなーって……」

誤魔化したのか本心なのか、星崎は飄々と答えた。
山本が面白くなさそうに口をへの字にする。

「中学が一緒だったってだけで、仲良くも無い奴の事そんなに心配するか? 話したことも無いんだろ?」
「あぁ、愛原とは話したこと無いよ。けど、愛原のお婆ちゃんに世話になったことあってさ」

遠くを見つめる星崎。
山本は胡乱な表情を作る

「星崎、お前まさか熟女――」
「なんでそうなる……」
 
星崎の辟易した表情に、山本は愛想笑いを浮かべて両手を合わせた。

「ははは、冗談だよ冗談、悪い」
「そうか、冗談か、笑ってやれなくてごめん」
「いや……謝られてもな……」
 
ノリの悪い星崎に、クラス一のお調子者も言葉を濁らせる。
それ以上続かない会話と星崎の黄昏る姿。
その姿を前に、山本が珍しく真剣な表情で星崎を見つめた。