「そーですね。休み時間はいつも本を読んでます」
「鈴は本が好きだからね。あとは?」
おじさんの期待に満ちた声。
格ゲーより難易度が高い。
「えーっと、先生の手伝いをしたり……」
「うんうん」
「体育の時間、クラスメイトの応援をがんばったり……」
――していたかどうか定かではないが、おじさんを満足させる為に少し話を盛ってみた。
が、まだまだ物足りない様子だ。
だんだんと申し訳なさが込み上げてくる。
居眠りばかりの毎日。
クラスメイトの顔も名前も把握していない俺に、答えられる訳が無い。
「あー、すみません、あとは良く……」
「そうか! それは良かった!」
そうですよね。
良かったですよね。
ん?
「良いんですか、こんな情報で?」
おずおずと聞き返すと、おじさんは瞼を伏せる。
「まぁ、なんだその、イジメられたりしてなければ」
「イジメ……ですか?」
疑念を抱く俺に、おじさんは台所の様子を確認しながら顔を寄せて来た。
「あまり詳しくは話せないけど、鈴は小学生の時に色々あってね。数年前にルミさんを頼って引っ越してきたんだよ」
溜息交じりの言葉。
顔は笑っているのに、声音はとても重い。
事故の事だろうか。
帽子で隠さなければいけない程の大きな傷跡。
陽気なおじさんの表情を、一瞬で曇らせるような出来事。
詮索なんて出来なかった。
「そうだったんですか……。あの、俺の知る限り何もないですよ」
そう言いながらも、今日の先輩とのトラブルを伝えるべきか迷ったが、既に解決していて報復もなさそうなので口を噤んだ。
おじさんは少し不服そうだったが、直ぐに笑顔に戻る。
「そうか、何も無いなら良かった。けど、贅沢を言うなら友達を作って欲しいんだよね」
「友達、ですか?」
「恋人でも良いんだけどねぇ」
おじさんはおどけた様子で俺に体を寄せる。
「えっと――」
「隙あり!」
「あ!」
また負けた。
「ははは、ごめんごめん、今日はここまでにしよう。続きはまた明日」
「え? あ、はい」
もうそんな時間か……。
感じた事の無い名残惜しさが胸に溢れた。
楽しかったと素直に思ったのは何年振りだろう。
その気持ちをおじさんに伝えたいのに、上手く言葉が纏まらない。
あれこれと考えている間に、おじさんは片付けと帰り支度を済ませ、愛原を呼びに行ってしまった。
「鈴は本が好きだからね。あとは?」
おじさんの期待に満ちた声。
格ゲーより難易度が高い。
「えーっと、先生の手伝いをしたり……」
「うんうん」
「体育の時間、クラスメイトの応援をがんばったり……」
――していたかどうか定かではないが、おじさんを満足させる為に少し話を盛ってみた。
が、まだまだ物足りない様子だ。
だんだんと申し訳なさが込み上げてくる。
居眠りばかりの毎日。
クラスメイトの顔も名前も把握していない俺に、答えられる訳が無い。
「あー、すみません、あとは良く……」
「そうか! それは良かった!」
そうですよね。
良かったですよね。
ん?
「良いんですか、こんな情報で?」
おずおずと聞き返すと、おじさんは瞼を伏せる。
「まぁ、なんだその、イジメられたりしてなければ」
「イジメ……ですか?」
疑念を抱く俺に、おじさんは台所の様子を確認しながら顔を寄せて来た。
「あまり詳しくは話せないけど、鈴は小学生の時に色々あってね。数年前にルミさんを頼って引っ越してきたんだよ」
溜息交じりの言葉。
顔は笑っているのに、声音はとても重い。
事故の事だろうか。
帽子で隠さなければいけない程の大きな傷跡。
陽気なおじさんの表情を、一瞬で曇らせるような出来事。
詮索なんて出来なかった。
「そうだったんですか……。あの、俺の知る限り何もないですよ」
そう言いながらも、今日の先輩とのトラブルを伝えるべきか迷ったが、既に解決していて報復もなさそうなので口を噤んだ。
おじさんは少し不服そうだったが、直ぐに笑顔に戻る。
「そうか、何も無いなら良かった。けど、贅沢を言うなら友達を作って欲しいんだよね」
「友達、ですか?」
「恋人でも良いんだけどねぇ」
おじさんはおどけた様子で俺に体を寄せる。
「えっと――」
「隙あり!」
「あ!」
また負けた。
「ははは、ごめんごめん、今日はここまでにしよう。続きはまた明日」
「え? あ、はい」
もうそんな時間か……。
感じた事の無い名残惜しさが胸に溢れた。
楽しかったと素直に思ったのは何年振りだろう。
その気持ちをおじさんに伝えたいのに、上手く言葉が纏まらない。
あれこれと考えている間に、おじさんは片付けと帰り支度を済ませ、愛原を呼びに行ってしまった。

