「お、お父さん酔ってる!?」
「――よし、君はとってもいい子だから、ぜひ鈴のお婿さ――」
「ちょっと! 何言ってるのお父さん!?」

何やら可笑しな事を口走り始めるお父さん。 
困っている私を余所に、大神君はご飯も食べずに宙を眺めている。

「お婿さんかぁ……」
「大神くんも想像しなくていいから!」

冗談だと分かってはいるが、内容が内容なだけに反応に困っていると、大神君が穏やかな表情で私を見つめて来た。
今まで怖いと思っていた大神君の鋭い目つき。
でも、今日は何だか暖かい。

「愛原……」
「な、何?」
「元気な愛原初めて見た。かわいい」
「――かっ!」

お父さんからの悪影響か、大神君まで可笑しな事を言い始めた。
もちろん、お父さんがその言葉を聞き逃すはずも無く、上機嫌でお酒を呷る。

「そうだろ、そうだろ、鈴は世界一かわいいんだぞ!」
「冗談はいいから早く食べてよ!」
「ははは、おかわりー」
「もう……」

突き出された茶碗を受け取り台所に向かう。
背後から聞こえるお父さんの高笑いに、呆れと共に罪悪感が芽生えた。

お父さんが楽しそうにしている姿を見るのは何年ぶりだろうか。
私にはあんな風にお父さんを笑顔に出来ない。
ご飯をよそいながら眺めた三人は、別世界のように輝いて見えた。

私の唯一の居場所だったのに、そこには今、大神君が座っている。

やっぱり凄いな、大神君……。

私はただひたすらに、お腹を満たす事と存在を消すことに徹した。

☆☆☆