あれから一週間が経った。
真昼のテストが終わったとのことで、ようやく会う予定が立てられた。
今度は俺のテストが近いが、一日会うくらいはいいだろう。俺には勉強より真昼に会う方が何倍も大事だ。勉強をおざなりにすると真昼になにを言われるか分からないので、これは黙っておくことにする。
真昼との初めてのメッセージアプリでのやり取りは新鮮で、俺はすぐに既読をつけて返信をした。真昼も同じことを考えていたようで、俺が送ったメッセージに既読はすぐについた。今まで連絡が取れなかった分を取り返すように予定以外のやり取りもして、おかげで寝不足だ。
ちなみに真昼は予想通りというべきか、メッセージに加えて猫のスタンプをたくさん送ってきた。非常に可愛いので俺も買おうか考えているところだ。
「そっか。やっと会えたんだね」
「あぁ」
昼休み。俺は廊下にえりを呼び出し、無事に解決したことを伝えた。心配をかけたし、えりにはきちんと解決したことを伝えておくべきだと思っていたから。
俺とえりが別れたことは学年中に知れ渡っているために、俺たちを遠目にちらちらと見てくる奴がいた。しかし、俺もえりも気にしていなかった。過去を乗り越え、吹っ切れた俺たちに怖いものはなにもなかった。
「告白はしたの?」
「したよ」
「結果は……聞かなくても表情で分かるね。おめでとう」
「ありがとな」
どうやら俺は見破られるほど表情に出ていたようだ。クラスメイトたちにも「西宮、なんか明るくなった?」と聞かれたから、俺は顔に出やすいタイプらしい。
「今回のことはえりがいなきゃ解決できなかった。本当にありがとう」
「そんなことないよ。あたしはなんにもしてないし、全部西宮が頑張ったんだから。とにかく、お疲れ様」
えりが笑顔で拳を出してきたので、俺は軽く拳を突き合わせた。
「じゃあさ、今度Wデートとかしちゃう?」
「後ろ向きに考えとくよ」
冗談めいた口ぶりのえりに俺は冷静に返す。俺とえりは知り合いだからまだしも、真昼とえりの彼氏が気まずいに違いない。経験したことがないから、Wデートはそういうものなのかもしれないが。
他にも雑談をしているとチャイムが鳴ったので、えりと別れて教室に戻る。
「西宮、お前えりちゃんと話してたな」
「なに話してたんだ?」
「ていうか、気まずくないのか?」
教室に戻ると、案の定クラスメイトたちに詰め寄られた。お前らもガヤの一人かとツッコみたくなる。一時期話題になっていたくらいだし、一緒にいたら流石に目立つか。
「まぁ、別に絶交したわけじゃないからな」
俺はえりの言葉を借りて、大袈裟に笑ってみせた。
放課後。俺は真昼との待ち合わせ場所である駅へ向かっていた。電車が早く来て欲しいと願いながら、乗り換えもできる限りスピーディーに行った。
海は時間を作って休日に行こうかとも話していたが、真昼が「放課後がいい」と送ってきたので真昼の意見を尊重することにした。
待ち合わせの駅に到着した俺は、すぐにコンビニでココアを二本買った。今度こそ真昼に渡せると信じて。温かいうちに来てくれたらいいな、と期待を込めながら改札をしきりに見つめる。
真昼を見つけたら手をブンブンと振って迎えるのもいいが、子供っぽい気がする。俺はしれっと迎えようと決めてスマホを取り出した。
「お待たせ」
スマホゲームをして待っていると、聞き慣れた澄んだ声が聞こえる。すぐに真昼だと分かった。なんて声をかけようかと考えながら顔を上げる。
「……眼鏡?」
そこにいた真昼は、眼鏡をかけていた。しかもいつもの制服ではなく、本来の制服を着ていた。
見慣れない真昼の姿に驚いている俺の表情が可笑しかったのか、真昼はくすくすと笑って眼鏡のフレームを持ち上げた。
「コンタクトも朝日のためにつけるようになったからね。そこまで目は悪くないけど、眼鏡かけてるっていうのも教えてなかったもんね」
「そういうことか。眼鏡姿も可愛いよ」
俺が口に出すと、真昼は言葉を詰まらせながら顔を逸らす。
「……朝日、直球に言い過ぎ。可愛いなんて軽々しく口に出さないでよ」
「似合ってるんだから褒めるしかないだろ」
「そこは似合ってるでいいでしょ」
確かにその言葉でも良かったかもしれない。だが、新鮮で可愛いのは事実だ。本心から出た言葉だから軽い男には思わないで欲しい。
「これ、買っておいたよ」
俺がココアを渡すと、真昼は嬉しそうに両手で受け取った。
「ありがとう。私はなにも用意してないや」
「いいよ。俺が渡したくて用意したんだから」
真昼がペットボトルを突き出してきたから、乾杯をするようにペットボトルを突き合わせる。ココアを飲むと、温かい感覚が体の中にじわりと広がる。甘いものは寒い体を温めるのにはぴったりだ。
「それにしても、今日も寒いね」
「最近は寒い日が続いてるからな」
「雪、降るかな」
「降ってくれたらロマンチックだけど、今日は悲しいことに快晴だからな」
いわゆる冬晴れというやつだ。雪予報もこの近くでは特にないし、降ったとてみぞれ程度で終わるだろう。
いっそのこと二人で雪国に行って雪を楽しむのもありかもしれない。なんて気楽なことを言ったら雪国住みの人々に怒られる。
だが、雪を楽しむイベントはまだ楽しんでいないから、候補にあげるのは悪くない。なんてことを話に振りながら、雑談をして海への道を歩く。
冬に吹く風は寒い。特に海風なら尚更だ。ただ、今の俺には冷たい風すらも心地良く思える。それは隣に真昼がいるからだろう。隣に真昼がいるというだけで気温が数度上がっている気がする。
「やっと来れたね」
到着したのは海水浴場ではない、コンクリートの堤防が並ぶ海。休日になれば親子が釣りに来るかもしれないと、そんな想像をしてみた。
「あっちに行けば砂浜もあるよ」
流石、近くの学校に通っているだけある。真昼についていくと、静かに波が押し寄せる小さな砂浜があった。堤防から砂浜に降り立ち、真昼は波の近くまで歩みを進める。
「入るのは流石に寒いかな」
「入ってもいいけど、風邪引いても知らないぞ」
「もし風邪引いたらお見舞いに来てよ」
家教えるよ、と俺を揶揄うように笑う真昼。風邪を引いたらもちろんお見舞いには行くが、ほぼ真昼の自業自得だろう。俺は一応止めたからな。
「それなら、代わりにあれやる? 砂浜でカップルが追いかけっこするやつ」
「寒いから一人でやってくれ」
「夢がないなぁ。海に来たんだから海を楽しまなきゃ」
漫画のように追いかけっこなんてことをするカップルは、俺の周りでは聞いたことがない。海が太陽に反射して輝く夏ならまだしも、今は冬の夕方だ。ただ冷たさに凍えるだけだ。
冬の海で楽しめることといえば空気感を楽しむことと、景色を見ながら飲むホットドリンクの存在くらいだろう。思い出した俺は鞄にしまっていたココアを飲む。
「次は釣りもいいかもね。今はなにが釣れるのか分からないけど」
次のデート先を決めるのがもはや習慣になっているから、頭が自然と次のデート先を考えている。
次のデート先を決めるというのは、俺たちの中に生まれたある種のルールに近い。いつも次の約束を取りつけるのは楽しかったし、ぜひこれからも活用しようと思う。
「あのさ」
「なに?」
しゃがんで小さな砂山を作り始めていた真昼を呼び止める。真昼は不思議そうに首を傾げた。その姿がとても愛おしく見えて、俺の表情が緩む。
「去年から始まった約束の一ヶ月は過ぎた。でも俺は、これからも真昼とずっと一緒にいたい」
少し驚いた後に、すぐに表情を切り替えて真昼は小さく笑う。
「奇遇だね。私も朝日とずっと一緒にいたいと思ってるよ」
真昼は立ち上がり、手についた砂を払う。
「春も夏も秋も、また冬を迎えて、その先もずっと。何度季節が巡っても、私と朝日は一緒にいる。私は確信してるよ」
そう言う真昼の笑顔は、夕焼けに負けないくらい眩しかった。
「あったかくなったら、また海に来ようよ。そしたら追いかけっこも寒くないよ」
「追いかけっこはさておき、春に来るのはいいな。また見える景色も変わるだろうし」
俺は気がついた。これまでの一ヶ月は俺たちにとっての序章に過ぎなかったことに。
あのときバッティングセンターで――電車の中で真昼が俺を見つけなければ、出会うことさえなかった。
最初は本気じゃなかったと言われたら頷いてしまう。だが、いつの間にか本気になっていた。全てが積み重なって、今の俺たちになっている。
「真昼」
俺は真昼を呼ぶ。
「ん?」
笑顔で振り返った姿に、俺は胸が高鳴る。今の真昼は、夕焼けよりも海よりも綺麗だった。
ヨルはもういない。目の前にいるのは俺が知らなかった誰かでもない。
真昼だ。
今はまだ眼鏡と本来の制服は見慣れないけど、その奥にある声も、仕草も、笑顔も、俺は確かに知っている。君がどんな姿でもいい。俺はどんな君も好きだ。
俺たちは不器用だったし遠回りもした。だが、その一つ一つが今へと繋がっている。これで終わりじゃない。むしろ、やっと始まるんだ。
俺はこれからも真昼をたくさん知って、もっと好きになっていく。もしかしたらすれ違ったり喧嘩をしたりする日もあるかもしれない。でも安心して欲しい。俺が全部受け止めるから。俺が、君を照らす太陽になる。
ロマンチックに「愛してる」なんて言葉にするには照れくさいけど、いつかきっと言えるようになる気がしている。その日まで俺は何度でも、何年でも、君に「好きだ」と言い続けるだろう。
そしていつか、心から君を「愛してる」と言えるようになりたいと思っている。
だから今は、たくさんの「好き」を君に伝えよう。
俺は今できる、最高の笑顔を真昼に向ける。
「好きだよ、真昼」
―完―
真昼のテストが終わったとのことで、ようやく会う予定が立てられた。
今度は俺のテストが近いが、一日会うくらいはいいだろう。俺には勉強より真昼に会う方が何倍も大事だ。勉強をおざなりにすると真昼になにを言われるか分からないので、これは黙っておくことにする。
真昼との初めてのメッセージアプリでのやり取りは新鮮で、俺はすぐに既読をつけて返信をした。真昼も同じことを考えていたようで、俺が送ったメッセージに既読はすぐについた。今まで連絡が取れなかった分を取り返すように予定以外のやり取りもして、おかげで寝不足だ。
ちなみに真昼は予想通りというべきか、メッセージに加えて猫のスタンプをたくさん送ってきた。非常に可愛いので俺も買おうか考えているところだ。
「そっか。やっと会えたんだね」
「あぁ」
昼休み。俺は廊下にえりを呼び出し、無事に解決したことを伝えた。心配をかけたし、えりにはきちんと解決したことを伝えておくべきだと思っていたから。
俺とえりが別れたことは学年中に知れ渡っているために、俺たちを遠目にちらちらと見てくる奴がいた。しかし、俺もえりも気にしていなかった。過去を乗り越え、吹っ切れた俺たちに怖いものはなにもなかった。
「告白はしたの?」
「したよ」
「結果は……聞かなくても表情で分かるね。おめでとう」
「ありがとな」
どうやら俺は見破られるほど表情に出ていたようだ。クラスメイトたちにも「西宮、なんか明るくなった?」と聞かれたから、俺は顔に出やすいタイプらしい。
「今回のことはえりがいなきゃ解決できなかった。本当にありがとう」
「そんなことないよ。あたしはなんにもしてないし、全部西宮が頑張ったんだから。とにかく、お疲れ様」
えりが笑顔で拳を出してきたので、俺は軽く拳を突き合わせた。
「じゃあさ、今度Wデートとかしちゃう?」
「後ろ向きに考えとくよ」
冗談めいた口ぶりのえりに俺は冷静に返す。俺とえりは知り合いだからまだしも、真昼とえりの彼氏が気まずいに違いない。経験したことがないから、Wデートはそういうものなのかもしれないが。
他にも雑談をしているとチャイムが鳴ったので、えりと別れて教室に戻る。
「西宮、お前えりちゃんと話してたな」
「なに話してたんだ?」
「ていうか、気まずくないのか?」
教室に戻ると、案の定クラスメイトたちに詰め寄られた。お前らもガヤの一人かとツッコみたくなる。一時期話題になっていたくらいだし、一緒にいたら流石に目立つか。
「まぁ、別に絶交したわけじゃないからな」
俺はえりの言葉を借りて、大袈裟に笑ってみせた。
放課後。俺は真昼との待ち合わせ場所である駅へ向かっていた。電車が早く来て欲しいと願いながら、乗り換えもできる限りスピーディーに行った。
海は時間を作って休日に行こうかとも話していたが、真昼が「放課後がいい」と送ってきたので真昼の意見を尊重することにした。
待ち合わせの駅に到着した俺は、すぐにコンビニでココアを二本買った。今度こそ真昼に渡せると信じて。温かいうちに来てくれたらいいな、と期待を込めながら改札をしきりに見つめる。
真昼を見つけたら手をブンブンと振って迎えるのもいいが、子供っぽい気がする。俺はしれっと迎えようと決めてスマホを取り出した。
「お待たせ」
スマホゲームをして待っていると、聞き慣れた澄んだ声が聞こえる。すぐに真昼だと分かった。なんて声をかけようかと考えながら顔を上げる。
「……眼鏡?」
そこにいた真昼は、眼鏡をかけていた。しかもいつもの制服ではなく、本来の制服を着ていた。
見慣れない真昼の姿に驚いている俺の表情が可笑しかったのか、真昼はくすくすと笑って眼鏡のフレームを持ち上げた。
「コンタクトも朝日のためにつけるようになったからね。そこまで目は悪くないけど、眼鏡かけてるっていうのも教えてなかったもんね」
「そういうことか。眼鏡姿も可愛いよ」
俺が口に出すと、真昼は言葉を詰まらせながら顔を逸らす。
「……朝日、直球に言い過ぎ。可愛いなんて軽々しく口に出さないでよ」
「似合ってるんだから褒めるしかないだろ」
「そこは似合ってるでいいでしょ」
確かにその言葉でも良かったかもしれない。だが、新鮮で可愛いのは事実だ。本心から出た言葉だから軽い男には思わないで欲しい。
「これ、買っておいたよ」
俺がココアを渡すと、真昼は嬉しそうに両手で受け取った。
「ありがとう。私はなにも用意してないや」
「いいよ。俺が渡したくて用意したんだから」
真昼がペットボトルを突き出してきたから、乾杯をするようにペットボトルを突き合わせる。ココアを飲むと、温かい感覚が体の中にじわりと広がる。甘いものは寒い体を温めるのにはぴったりだ。
「それにしても、今日も寒いね」
「最近は寒い日が続いてるからな」
「雪、降るかな」
「降ってくれたらロマンチックだけど、今日は悲しいことに快晴だからな」
いわゆる冬晴れというやつだ。雪予報もこの近くでは特にないし、降ったとてみぞれ程度で終わるだろう。
いっそのこと二人で雪国に行って雪を楽しむのもありかもしれない。なんて気楽なことを言ったら雪国住みの人々に怒られる。
だが、雪を楽しむイベントはまだ楽しんでいないから、候補にあげるのは悪くない。なんてことを話に振りながら、雑談をして海への道を歩く。
冬に吹く風は寒い。特に海風なら尚更だ。ただ、今の俺には冷たい風すらも心地良く思える。それは隣に真昼がいるからだろう。隣に真昼がいるというだけで気温が数度上がっている気がする。
「やっと来れたね」
到着したのは海水浴場ではない、コンクリートの堤防が並ぶ海。休日になれば親子が釣りに来るかもしれないと、そんな想像をしてみた。
「あっちに行けば砂浜もあるよ」
流石、近くの学校に通っているだけある。真昼についていくと、静かに波が押し寄せる小さな砂浜があった。堤防から砂浜に降り立ち、真昼は波の近くまで歩みを進める。
「入るのは流石に寒いかな」
「入ってもいいけど、風邪引いても知らないぞ」
「もし風邪引いたらお見舞いに来てよ」
家教えるよ、と俺を揶揄うように笑う真昼。風邪を引いたらもちろんお見舞いには行くが、ほぼ真昼の自業自得だろう。俺は一応止めたからな。
「それなら、代わりにあれやる? 砂浜でカップルが追いかけっこするやつ」
「寒いから一人でやってくれ」
「夢がないなぁ。海に来たんだから海を楽しまなきゃ」
漫画のように追いかけっこなんてことをするカップルは、俺の周りでは聞いたことがない。海が太陽に反射して輝く夏ならまだしも、今は冬の夕方だ。ただ冷たさに凍えるだけだ。
冬の海で楽しめることといえば空気感を楽しむことと、景色を見ながら飲むホットドリンクの存在くらいだろう。思い出した俺は鞄にしまっていたココアを飲む。
「次は釣りもいいかもね。今はなにが釣れるのか分からないけど」
次のデート先を決めるのがもはや習慣になっているから、頭が自然と次のデート先を考えている。
次のデート先を決めるというのは、俺たちの中に生まれたある種のルールに近い。いつも次の約束を取りつけるのは楽しかったし、ぜひこれからも活用しようと思う。
「あのさ」
「なに?」
しゃがんで小さな砂山を作り始めていた真昼を呼び止める。真昼は不思議そうに首を傾げた。その姿がとても愛おしく見えて、俺の表情が緩む。
「去年から始まった約束の一ヶ月は過ぎた。でも俺は、これからも真昼とずっと一緒にいたい」
少し驚いた後に、すぐに表情を切り替えて真昼は小さく笑う。
「奇遇だね。私も朝日とずっと一緒にいたいと思ってるよ」
真昼は立ち上がり、手についた砂を払う。
「春も夏も秋も、また冬を迎えて、その先もずっと。何度季節が巡っても、私と朝日は一緒にいる。私は確信してるよ」
そう言う真昼の笑顔は、夕焼けに負けないくらい眩しかった。
「あったかくなったら、また海に来ようよ。そしたら追いかけっこも寒くないよ」
「追いかけっこはさておき、春に来るのはいいな。また見える景色も変わるだろうし」
俺は気がついた。これまでの一ヶ月は俺たちにとっての序章に過ぎなかったことに。
あのときバッティングセンターで――電車の中で真昼が俺を見つけなければ、出会うことさえなかった。
最初は本気じゃなかったと言われたら頷いてしまう。だが、いつの間にか本気になっていた。全てが積み重なって、今の俺たちになっている。
「真昼」
俺は真昼を呼ぶ。
「ん?」
笑顔で振り返った姿に、俺は胸が高鳴る。今の真昼は、夕焼けよりも海よりも綺麗だった。
ヨルはもういない。目の前にいるのは俺が知らなかった誰かでもない。
真昼だ。
今はまだ眼鏡と本来の制服は見慣れないけど、その奥にある声も、仕草も、笑顔も、俺は確かに知っている。君がどんな姿でもいい。俺はどんな君も好きだ。
俺たちは不器用だったし遠回りもした。だが、その一つ一つが今へと繋がっている。これで終わりじゃない。むしろ、やっと始まるんだ。
俺はこれからも真昼をたくさん知って、もっと好きになっていく。もしかしたらすれ違ったり喧嘩をしたりする日もあるかもしれない。でも安心して欲しい。俺が全部受け止めるから。俺が、君を照らす太陽になる。
ロマンチックに「愛してる」なんて言葉にするには照れくさいけど、いつかきっと言えるようになる気がしている。その日まで俺は何度でも、何年でも、君に「好きだ」と言い続けるだろう。
そしていつか、心から君を「愛してる」と言えるようになりたいと思っている。
だから今は、たくさんの「好き」を君に伝えよう。
俺は今できる、最高の笑顔を真昼に向ける。
「好きだよ、真昼」
―完―
