気がつけば、あっという間に新学期を迎えてしまった。
 ヨルとのデートも前日になり、俺は朝からずっとそわそわしていた。普通なら約二週間ぶりに会うクラスメイトたちとどう接すればいいか考えるところだが、俺はそれどころではない。明日のシミュレーションをずっと頭の中で繰り返している。
 俺が考えられる最良のシチュエーションは、ヨルの気持ちも当てはまれば忘れられない最高の告白となる。だからこそ、失敗できない。
 気を引き締めて、俺は教室の扉を開けた。

「西宮おはー。あけおめことよろー」

 教室に入ると、クラスメイトの適当な挨拶が飛んできた。張り切っていた俺は気が抜け、適当に挨拶を返して席につく。
 教室で顔を合わせるクラスメイトたちは、変わっていないと言えば当然の話だった。ただ、スキーに行ってきた奴とか、海外旅行でバカンスをしてきたような豪勢な奴はもれなく日焼けをしていた。俺たちクラスメイトにと配って回ったお土産が美味かったから尚のこと羨ましい。
 それと、俺は宿題をきちんと前日までに全て終わらせ、いつもより余裕を持った新学期を迎えることができた。これもヨルが俺に優しく言いつけてくれたおかげだ。

「もうすぐテストがあるから、くれぐれも気を抜かないように」

 ホームルームでは担任の話が淡々と進んでいく。すぐに三年生になって受験生になるだとか、模試の成績も気にしろだとか、俺の欠伸を誘うには十分すぎる内容が続いていった。やる気のある生徒ならまだしも、ほどほどの成績かつ関心がない俺は外の景色を眺めてホームルームが終わるのを待っていた。
 久しぶりの授業は冬休み前となんら変わりなく、少しテストや受験に向けた内容になったくらいだった。チャイムが鳴り、ようやく昼休みになった。
 新学期から張り切って弁当を作る気はないと親に言われたため、購買で買った唐揚げ弁当を片手に教室へ戻る。

「西宮、放課後カラオケ行かね?」

 席につくや否や、クラスメイトたちは嬉々として俺を遊びに誘ってきた。お前らは俺をカラオケに誘うことしかできないのかと言いたくなる。
 カラオケなんて行って声を枯らしてしまったら、がさがさになった声で告白をすることになる。それでムードが台無しになるなんてことは絶対に避けたい。

「明日大事な予定があるから、喉を酷使するカラオケはやめとく」
「そうか。じゃあファミレスにするか」

 俺が断りを入れると、即座に別の提案をしてくる。どうやら誘いを断るという選択肢は俺にはないらしい。ファミレスなら大声で騒ぐこともないしいいだろう。

「ファミレスならいいよ。ただ早めの解散だと助かる」
「オッケー。じゃあファミレスな」

 予定が決まると話はすぐに変わり、年末年始に見たテレビや起こった出来事で盛り上がり始めた。ここで話せばファミレスのときに話題が尽きるのではと内心で苦笑する。
 冗談を入り交ぜながら盛り上がっていく、なにも変わらないクラスメイトたちに笑いながら、俺は唐揚げを口に入れた。

 放課後。約束通り俺は学校に一番近いファミレスに連れてこられた。俺たちの学校の生徒が屯す定番の場所だ。
 フライドポテトとドリンクバーを頼んで雑談をして終わるかと思いきや、まさかのクラスメイトからの恋愛相談が始まった。話を聞くと、バイト先に新しく入ってきた子に一目惚れしたらしい。
 友人の悩みなら解決してやるしかない。俺たちは日が暮れるまで全力で相談に乗った。
 ヨルのこともあり、俺は特に親身になって相談を聞いていた。俺と同じ状況になっている奴を放っておくことなんてできなかった。

「お前らのおかげでバイト頑張れそう……まずは言われたことやってみる!」

 恋愛相談が終わる頃には程よい時間になり、俺たちは解散した。
 電車に乗り、すっかり暗くなった家までの道を早足で歩く。最近は寒い予報が続いているため、一刻も早く暖かい家に帰りたい。

「明日、か」

 俺の呟きに乗って白い息が流れていく。
 ヨルとは初詣以来だから、一週間ぶりに会うことになる。電話もしたが、直接話したいこともたくさんある。今日までに話したい内容は頭の中に溜めてある。
 ファミレスでクラスメイトの恋愛相談に乗っているうちに、俺もヨルに会いたい気持ちが強くなった。ヨルの姿が、笑顔が鮮明に浮かぶ。たった一週間会っていないだけなのに懐かしくなってしまった。
 会えたときにはなんて声をかけよう。やはり「久しぶり」が定番か。それとも「元気だった?」とか「調子どう?」の方がいいか。一言目だから変な言葉はかけられない。
 それとも、ヨルが言ってくれそうな言葉を逆算して言葉を考える方がいいだろうか。それは現実的ではないからやめておこう。必死に悩んだのに、ヨルから「久しぶり」の一言だっただけの場合悲しくなる。
 最初の挨拶で悩めるのだから、まだ今の自分には余裕がある。明日になれば挨拶どころではない気がする。
 早く家に帰って最後のシミュレーションをしよう。最悪、睡眠時間は最低限確保できればいい。全ては俺が完璧な告白をするための準備段階だ。
 明日は最高の日になればいいと願って、俺は家に帰る足を早めた。

 そして、ついにデート当日を迎えた。