「さっき見かけたポテトの屋台、美味しそうだったな」
「じゃあ買いに行くか」
「朝日はいいの?」
「途中で見かけた屋台にするよ」
屋台がありすぎて答えが決まらないのが本音だ。もしかしたらヨルが買う予定の隣の屋台の食べ物が美味しそうで買う可能性だってある。
俺のおみくじは焦るな、と書かれていたから、焦らずにその場の出会いを大事にしようという心持ちだ。
予想は当たり、ヨルが買おうとしていた屋台の隣は唐揚げと書かれた暖簾が下がっていた。ヨルが買う横で、俺も無事に食べ物を購入した。
「うん、美味しい」
通りすがる人々の妨げにならないように参道の端に避け、各々購入した物を食べ始める。
「はい、朝日」
「ん」
ヨルにポテトを差し出されたので、反射的に口を開けてしまった。俺の口にポテトが入れられ、熱々のポテトを味わう。
咀嚼しながら、人前でカップルらしいことをしていると客観的に考える。
それよりも、こんな自然とイチャイチャする機会ができるなんて予想していなかった俺は、次第に顔が熱くなっていく。ヨルに見られないように咄嗟に顔を隠す。
「ごめん、いきなり口に入れたから熱かった?」
「……いや、平気」
初めてのことではないのに、こんなに恥ずかしくなるのはなぜだろう。あのときは好意を抱いていなかったからできたのか。好意がなくてできる方がおかしい気もするが。
「ヨルもいるか?」
「良ければもらおうかな」
顔の熱さも落ち着き、体勢を立て直した俺はヨルに唐揚げが入ったコップを差し出す。流石に唐揚げをあーんさせるのはロマンチックではない。
「美味しいね」
はふはふと言わせながら、ヨルは笑顔を綻ばせる。まるで自分が作ったかのように錯覚して、俺は「そうだろ」と自慢げに返した。
食べ終わった後は屋台をぐるりと見て回り、こんな屋台もあるのかと二人で盛り上がった。気がつけば夕方になっていて、空は黒色のグラデーションを見せ始めていた。
待ち合わせ時間もいつもより遅く、人も多かったために歩く速度も遅かった。自然とのんびりしていたから、時間の進みが早く感じられたのかもしれない。
元日だから開いている店もないだろうということで解散する流れになった。
「次のデート先だけど、この前の映画は朝日が決めたよね。だから次も私が決めていい?」
駅に向かう途中、ヨルが提案してきた。
この前の映画は俺が話を持ちかけた。クリスマスに続いて俺が決めたから、次は連続でヨルが決めてもなんら問題はない。
「もちろんいいよ。どこか行きたいところはあるか?」
「……海とか、どうかな」
少し悩んだ様子を見せた後、ヨルはぽつりと呟く。
「冬で寒いけど、デート先にはぴったりでしょ」
夕空をぼんやりと見上げながらヨルは続けた。
海か。確かに冬に行くには寒い気がする。海には夏しか行ったことがないため、寒さの想像もつかない。
だが、ヨルが行きたいと言うなら反対する理由がない。
「申し訳ないんだけど、会うのは来週でもいいかな?」
「来週? 俺はいいけど、なにかあるのか?」
「授業が始まった後、すぐテストがあるんだよね。ちょっとだけ集中したいなって思って」
そこで俺の中に、過去の記憶が不意に蘇る。
――ほら、お互い受験で忙しくなるしさ。
思い浮かんだのは、元カノが俺に告げた別れの言葉。勉強を理由にするのは、俺の中で距離を置く言葉のテンプレートになってしまっていた。
もちろんヨルはそのつもりで言ったんじゃない。そう思いたい。でも、俺の心の中は少しずつ不安で侵食されていった。
「おみくじの学問の項目にも、目標を立てるべしって書かれてたからね。テストも近いし、ちゃんと目標を立ててやろうかなって」
「……そういうことか。頑張って」
不安に苛まれる中でも返した俺の声は、意外と明るかった。
ヨルはきっと違う。心の中でそうだと自分に言い聞かせる。
「その間、たくさん電話しようよ。電話ならいつでも大丈夫だよ」
ヨルのフォローにも近い言葉で、俺の心は落ち着いていった。会えない間はヨルの言う通り、たくさん電話してやろうと決めた。
いつものように見送られて解散した帰り道、俺は突然閃いた。
次のデート先は海。海水浴シーズンではないから人は来ないしいないと予想する。しかも打ち寄せる波の音が静かに響く、落ち着いた場所だ。
もしかして、告白に最適なのでは。
次に会うときには、一ヶ月はまだ経っていない。しかし、この気持ちは一ヶ月で終わりを迎える前に伝えておきたい。成功したら一ヶ月を過ぎた後も関係は続き、仮に失敗しても次が最後のデートとして締めくくることもできる。どちらに転んでもいい結果だ。
そこまで考えて、俺は徐々に冷静さを取り戻していく。
衝動に任せてはいけない。俺の運勢に焦りは禁物と書かれていたのを思い出せ。一度立ち止まって考えるべきだ。それに、俺ばかりでヨルの気持ちをなにも考えていない。計画性のない浮かれた状態で告白するなんてヨルに失礼すぎる。
海に行くにはまだ時間がある。その間にしっかりと考えをまとめて、告白するかを決めよう。
意気込んだ俺は、早足で家への道を歩いた。
「じゃあ買いに行くか」
「朝日はいいの?」
「途中で見かけた屋台にするよ」
屋台がありすぎて答えが決まらないのが本音だ。もしかしたらヨルが買う予定の隣の屋台の食べ物が美味しそうで買う可能性だってある。
俺のおみくじは焦るな、と書かれていたから、焦らずにその場の出会いを大事にしようという心持ちだ。
予想は当たり、ヨルが買おうとしていた屋台の隣は唐揚げと書かれた暖簾が下がっていた。ヨルが買う横で、俺も無事に食べ物を購入した。
「うん、美味しい」
通りすがる人々の妨げにならないように参道の端に避け、各々購入した物を食べ始める。
「はい、朝日」
「ん」
ヨルにポテトを差し出されたので、反射的に口を開けてしまった。俺の口にポテトが入れられ、熱々のポテトを味わう。
咀嚼しながら、人前でカップルらしいことをしていると客観的に考える。
それよりも、こんな自然とイチャイチャする機会ができるなんて予想していなかった俺は、次第に顔が熱くなっていく。ヨルに見られないように咄嗟に顔を隠す。
「ごめん、いきなり口に入れたから熱かった?」
「……いや、平気」
初めてのことではないのに、こんなに恥ずかしくなるのはなぜだろう。あのときは好意を抱いていなかったからできたのか。好意がなくてできる方がおかしい気もするが。
「ヨルもいるか?」
「良ければもらおうかな」
顔の熱さも落ち着き、体勢を立て直した俺はヨルに唐揚げが入ったコップを差し出す。流石に唐揚げをあーんさせるのはロマンチックではない。
「美味しいね」
はふはふと言わせながら、ヨルは笑顔を綻ばせる。まるで自分が作ったかのように錯覚して、俺は「そうだろ」と自慢げに返した。
食べ終わった後は屋台をぐるりと見て回り、こんな屋台もあるのかと二人で盛り上がった。気がつけば夕方になっていて、空は黒色のグラデーションを見せ始めていた。
待ち合わせ時間もいつもより遅く、人も多かったために歩く速度も遅かった。自然とのんびりしていたから、時間の進みが早く感じられたのかもしれない。
元日だから開いている店もないだろうということで解散する流れになった。
「次のデート先だけど、この前の映画は朝日が決めたよね。だから次も私が決めていい?」
駅に向かう途中、ヨルが提案してきた。
この前の映画は俺が話を持ちかけた。クリスマスに続いて俺が決めたから、次は連続でヨルが決めてもなんら問題はない。
「もちろんいいよ。どこか行きたいところはあるか?」
「……海とか、どうかな」
少し悩んだ様子を見せた後、ヨルはぽつりと呟く。
「冬で寒いけど、デート先にはぴったりでしょ」
夕空をぼんやりと見上げながらヨルは続けた。
海か。確かに冬に行くには寒い気がする。海には夏しか行ったことがないため、寒さの想像もつかない。
だが、ヨルが行きたいと言うなら反対する理由がない。
「申し訳ないんだけど、会うのは来週でもいいかな?」
「来週? 俺はいいけど、なにかあるのか?」
「授業が始まった後、すぐテストがあるんだよね。ちょっとだけ集中したいなって思って」
そこで俺の中に、過去の記憶が不意に蘇る。
――ほら、お互い受験で忙しくなるしさ。
思い浮かんだのは、元カノが俺に告げた別れの言葉。勉強を理由にするのは、俺の中で距離を置く言葉のテンプレートになってしまっていた。
もちろんヨルはそのつもりで言ったんじゃない。そう思いたい。でも、俺の心の中は少しずつ不安で侵食されていった。
「おみくじの学問の項目にも、目標を立てるべしって書かれてたからね。テストも近いし、ちゃんと目標を立ててやろうかなって」
「……そういうことか。頑張って」
不安に苛まれる中でも返した俺の声は、意外と明るかった。
ヨルはきっと違う。心の中でそうだと自分に言い聞かせる。
「その間、たくさん電話しようよ。電話ならいつでも大丈夫だよ」
ヨルのフォローにも近い言葉で、俺の心は落ち着いていった。会えない間はヨルの言う通り、たくさん電話してやろうと決めた。
いつものように見送られて解散した帰り道、俺は突然閃いた。
次のデート先は海。海水浴シーズンではないから人は来ないしいないと予想する。しかも打ち寄せる波の音が静かに響く、落ち着いた場所だ。
もしかして、告白に最適なのでは。
次に会うときには、一ヶ月はまだ経っていない。しかし、この気持ちは一ヶ月で終わりを迎える前に伝えておきたい。成功したら一ヶ月を過ぎた後も関係は続き、仮に失敗しても次が最後のデートとして締めくくることもできる。どちらに転んでもいい結果だ。
そこまで考えて、俺は徐々に冷静さを取り戻していく。
衝動に任せてはいけない。俺の運勢に焦りは禁物と書かれていたのを思い出せ。一度立ち止まって考えるべきだ。それに、俺ばかりでヨルの気持ちをなにも考えていない。計画性のない浮かれた状態で告白するなんてヨルに失礼すぎる。
海に行くにはまだ時間がある。その間にしっかりと考えをまとめて、告白するかを決めよう。
意気込んだ俺は、早足で家への道を歩いた。
