決意したところで、俺はあることに気がつく。ヨルは以前会ったときにアクセサリーはしていなかった。もしかしてヨルは普段アクセサリーをつけないタイプなのではと予想した。
ならば、作戦を変えよう。アクセサリーは第二候補に下げ、別のものを探すことにしよう。再びアパレルショップをメインに回ることにした。
そこで俺は思い出す。目の前のことに必死になっていて、あれだけ考えた第一候補をすっかり忘れていた。
第一候補はマフラーだ。ヨルはこれまで会ったとき、どの場面でもマフラーはつけていなかった。コートに顔を埋めて寒そうにしていたのをよく覚えている。かじかんだ手に白い息を吐いて、寒さに耐えていたのも知っている。
だからマフラーを探そうと決めたのだ。マフラーなら今の季節、どんな店でも売っている。恐らくヨルに似合うものは見つかるはずだ。
改めて決意を固め、俺は近くのアパレルショップに入店した。
「……疲れた」
マフラーならどの店でも買えるから困らないだろうと予想したのは安直だった。逆に種類が多すぎて、どれを買えばいいか分からなくなってしまった。ヨルなら明るめの色――白や暖色が似合うと思い、その辺りをメインに探していた。と思ったら。
何軒目かに入った店員から「普段のお洋服が明るめの方でしたら、差し色で黒や落ち着いた色味を持ってくるとメリハリがつきますよ」なんてアドバイスをもらってしまった。俺自身はファッションに疎いわけではないが、洋服のプロに言われたらそうなんだろうと納得してしまう。
俺が購入するなら「そうなんですね。じゃあそうします」と悩まずにいられるが、マフラーを身につけるのはヨルだ。ヨルが似合わないとプレゼントの意味がない。
何軒も回ってマフラーを見続けて頭が疲弊してきたので、一度休憩を挟むことにした。
近くにチェーン店のカフェがあったので、誘われるようにカフェへと入店する。勉強をする学生や仕事をするサラリーマン、雑談で盛り上がるご婦人たちの間を通り抜け、席を確保する。
注文の列に並びながらメニューを見て、なにを頼もうか考える。疲れた体には甘いものだろうと思っていたところで、あるメニューが目につく。俺の口から自然と笑顔が出ていて、すぐにそのメニューにしようと決めた。
レジに案内され、俺は注文内容を口にする。
「ホットのチャイティー一つください」
ヨルに今度飲んでみてと言われたのが鮮明に浮かぶ。見かけたら飲むしかないと、俺は迷わずチャイティーを選んだ。
会計を済ませ、カウンターで受け取って席につく。蓋の隙間から漂うスパイスの香りが俺の鼻に届く。一口目を飲むと、甘さと温かさがダイレクトに伝わった。この前のカフェよりはスパイシーな味が強く、思い返しながら飲み比べをしている気分だ。
疲れていた体はチャイティーのおかげで癒され、徐々に体力が回復していった。
飲み終わった頃には完全に体が温まり、ショッピングモールに来たときと同様の元気を取り戻した。プレゼント探しを再開しようと、空のカップを捨てて鞄を背負う。
その後は根気よく何軒も店を回り、候補もだいぶ絞られてきた。ヨルが身につける姿を想像しながら、一つ一つ丁寧にマフラーを吟味していく。
そんな中、まだ入っていない店を見かけた。モールの端にあったから自然と見逃していたのかもしれない。ナチュラルな雰囲気の外装の店はどこか暖かさを感じられた。マフラーも他の店と同じように店頭に並んでいるのを見つけ、俺は早足で店に近づく。
そこに並んでいるマフラーを見た俺は、雷に打たれたような衝撃を覚えた。目の前に置いてあったのは、白地にベージュと茶色が組み合わさったチェック柄のマフラー。
これだ。
可愛すぎず、派手すぎず、非常にバランスがよく、いいとこ取りだ。このマフラーをヨルが身につけている姿がすぐに想像できた。これまで見てきたどのマフラーよりもしっくり来ている。
他に見ていた候補なんて一瞬で頭から消え去った。他の誰かに買われてしまう前にマフラーを手に取り、近くにいた女性店員に声をかける。
「あの、これ買います」
女性店員は「ありがとうございます」と笑顔でマフラーを受け取り、素早くレジに向かう。
「贈り物ですか?」
俺が頷くと、店員さんは「かしこまりました」と笑顔で微笑みを返す。
「ラッピングでご用意してよろしいですか?」
「はい。お願いします」
会計を済ませて、マフラーにラッピングがされていく光景を見守る。プレゼントを受け取ったヨルが嬉しそうにラッピングを剥がしてくれるのを想像して、思わずニヤけてしまった。俺が妄想する間にも手際よくマフラーは包まれていき、あっという間にラッピングは完成した。
「当日が楽しみですね」
「ありがとうございます」
女性店員に笑顔で渡され、妄想が口に出ていたのではと俺は気恥ずかしくなる。女性店員の言葉もあって、まるで背中を押されて応援してもらった気分だ。
無事にクリスマスプレゼントを購入できたことで、俺はほっと肩の力が抜けた。なによりも大事なミッションは無事にクリアできた。
マフラーの他になにか小物をプレゼントしようか迷ったが、特に目ぼしいものは見つからなかったので素直にマフラーだけをプレゼントすることにした。店員の言う通り、マフラーだけでもきっと喜んでくれるはずだ。
後は紙袋が傷つかないように丁寧に持ち帰るだけだ。俺は抱える――とまではいかないが、人にぶつからないように自分側に寄せながら紙袋を持ち直す。
帰宅する道中、今日一日ずっとヨルのことを考えていたことに気がついた。ヨルがいるならまだしも、ヨルがいないのにこんなにヨルのことを考えたのは初めてだった。
自分の中で、ここまでヨルの存在が大きくなっていたことに改めて驚く。十日ほど前の自分に、こんな人が自分の前に現れるのだと伝えても信じられないと言うだろう。最初に会ったときはヨルのことをあれだけ警戒していたのに。いや、コーヒーを飲んでお喋りに花を咲かせていたからそうでもないか。
これだけヨルのことを考えていて、好意があるのかと聞かれたら分からないと答えてしまう。ヨルに好印象を抱いているのは間違いなく、以前よりも確実に好意のレベルは上がっている。
だがもし、好意を認めたらどうなってしまうのかが分からなかった。俺とヨルは一ヶ月という期間限定で付き合っている。三分の一がもうすぐ終わり、来週になれば半分を過ぎてしまう。そんな中で色々なところへ出かけて思い出を作っている。終わりがあるのに、どんどん新しい思い出を作り続けていいのか。
そこまで悩むのも、きっとヨルと別れる想像がつかないからだ。ここまで知り合ってしまって、期限を迎えましたね、それじゃあバイバイと別れられるようなサッパリした性格でもない。
……今はきっと、そこまで思い悩む必要はないかもしれない。期限までまだ二週間はある。そうしたら二週間後にまた同じように悩む日がやってくるはずだ。そのときになれば考えも変わって答えも自然と出てくるだろう。
だから、今俺がやれることは決まっている。ヨルにイルミネーションとクリスマスプレゼントを渡して喜んでもらうことだ。
「喜んでくれるといいな……」
思わず口に出てしまうくらい、俺の中で期待が高まっていた。
紙袋の中には、俺がかけた思いが詰まっている。これで少しでもヨルを暖めてあげられたらいいなと願うばかりだ。
そんな願いを込めながら、俺は帰路についた。
ならば、作戦を変えよう。アクセサリーは第二候補に下げ、別のものを探すことにしよう。再びアパレルショップをメインに回ることにした。
そこで俺は思い出す。目の前のことに必死になっていて、あれだけ考えた第一候補をすっかり忘れていた。
第一候補はマフラーだ。ヨルはこれまで会ったとき、どの場面でもマフラーはつけていなかった。コートに顔を埋めて寒そうにしていたのをよく覚えている。かじかんだ手に白い息を吐いて、寒さに耐えていたのも知っている。
だからマフラーを探そうと決めたのだ。マフラーなら今の季節、どんな店でも売っている。恐らくヨルに似合うものは見つかるはずだ。
改めて決意を固め、俺は近くのアパレルショップに入店した。
「……疲れた」
マフラーならどの店でも買えるから困らないだろうと予想したのは安直だった。逆に種類が多すぎて、どれを買えばいいか分からなくなってしまった。ヨルなら明るめの色――白や暖色が似合うと思い、その辺りをメインに探していた。と思ったら。
何軒目かに入った店員から「普段のお洋服が明るめの方でしたら、差し色で黒や落ち着いた色味を持ってくるとメリハリがつきますよ」なんてアドバイスをもらってしまった。俺自身はファッションに疎いわけではないが、洋服のプロに言われたらそうなんだろうと納得してしまう。
俺が購入するなら「そうなんですね。じゃあそうします」と悩まずにいられるが、マフラーを身につけるのはヨルだ。ヨルが似合わないとプレゼントの意味がない。
何軒も回ってマフラーを見続けて頭が疲弊してきたので、一度休憩を挟むことにした。
近くにチェーン店のカフェがあったので、誘われるようにカフェへと入店する。勉強をする学生や仕事をするサラリーマン、雑談で盛り上がるご婦人たちの間を通り抜け、席を確保する。
注文の列に並びながらメニューを見て、なにを頼もうか考える。疲れた体には甘いものだろうと思っていたところで、あるメニューが目につく。俺の口から自然と笑顔が出ていて、すぐにそのメニューにしようと決めた。
レジに案内され、俺は注文内容を口にする。
「ホットのチャイティー一つください」
ヨルに今度飲んでみてと言われたのが鮮明に浮かぶ。見かけたら飲むしかないと、俺は迷わずチャイティーを選んだ。
会計を済ませ、カウンターで受け取って席につく。蓋の隙間から漂うスパイスの香りが俺の鼻に届く。一口目を飲むと、甘さと温かさがダイレクトに伝わった。この前のカフェよりはスパイシーな味が強く、思い返しながら飲み比べをしている気分だ。
疲れていた体はチャイティーのおかげで癒され、徐々に体力が回復していった。
飲み終わった頃には完全に体が温まり、ショッピングモールに来たときと同様の元気を取り戻した。プレゼント探しを再開しようと、空のカップを捨てて鞄を背負う。
その後は根気よく何軒も店を回り、候補もだいぶ絞られてきた。ヨルが身につける姿を想像しながら、一つ一つ丁寧にマフラーを吟味していく。
そんな中、まだ入っていない店を見かけた。モールの端にあったから自然と見逃していたのかもしれない。ナチュラルな雰囲気の外装の店はどこか暖かさを感じられた。マフラーも他の店と同じように店頭に並んでいるのを見つけ、俺は早足で店に近づく。
そこに並んでいるマフラーを見た俺は、雷に打たれたような衝撃を覚えた。目の前に置いてあったのは、白地にベージュと茶色が組み合わさったチェック柄のマフラー。
これだ。
可愛すぎず、派手すぎず、非常にバランスがよく、いいとこ取りだ。このマフラーをヨルが身につけている姿がすぐに想像できた。これまで見てきたどのマフラーよりもしっくり来ている。
他に見ていた候補なんて一瞬で頭から消え去った。他の誰かに買われてしまう前にマフラーを手に取り、近くにいた女性店員に声をかける。
「あの、これ買います」
女性店員は「ありがとうございます」と笑顔でマフラーを受け取り、素早くレジに向かう。
「贈り物ですか?」
俺が頷くと、店員さんは「かしこまりました」と笑顔で微笑みを返す。
「ラッピングでご用意してよろしいですか?」
「はい。お願いします」
会計を済ませて、マフラーにラッピングがされていく光景を見守る。プレゼントを受け取ったヨルが嬉しそうにラッピングを剥がしてくれるのを想像して、思わずニヤけてしまった。俺が妄想する間にも手際よくマフラーは包まれていき、あっという間にラッピングは完成した。
「当日が楽しみですね」
「ありがとうございます」
女性店員に笑顔で渡され、妄想が口に出ていたのではと俺は気恥ずかしくなる。女性店員の言葉もあって、まるで背中を押されて応援してもらった気分だ。
無事にクリスマスプレゼントを購入できたことで、俺はほっと肩の力が抜けた。なによりも大事なミッションは無事にクリアできた。
マフラーの他になにか小物をプレゼントしようか迷ったが、特に目ぼしいものは見つからなかったので素直にマフラーだけをプレゼントすることにした。店員の言う通り、マフラーだけでもきっと喜んでくれるはずだ。
後は紙袋が傷つかないように丁寧に持ち帰るだけだ。俺は抱える――とまではいかないが、人にぶつからないように自分側に寄せながら紙袋を持ち直す。
帰宅する道中、今日一日ずっとヨルのことを考えていたことに気がついた。ヨルがいるならまだしも、ヨルがいないのにこんなにヨルのことを考えたのは初めてだった。
自分の中で、ここまでヨルの存在が大きくなっていたことに改めて驚く。十日ほど前の自分に、こんな人が自分の前に現れるのだと伝えても信じられないと言うだろう。最初に会ったときはヨルのことをあれだけ警戒していたのに。いや、コーヒーを飲んでお喋りに花を咲かせていたからそうでもないか。
これだけヨルのことを考えていて、好意があるのかと聞かれたら分からないと答えてしまう。ヨルに好印象を抱いているのは間違いなく、以前よりも確実に好意のレベルは上がっている。
だがもし、好意を認めたらどうなってしまうのかが分からなかった。俺とヨルは一ヶ月という期間限定で付き合っている。三分の一がもうすぐ終わり、来週になれば半分を過ぎてしまう。そんな中で色々なところへ出かけて思い出を作っている。終わりがあるのに、どんどん新しい思い出を作り続けていいのか。
そこまで悩むのも、きっとヨルと別れる想像がつかないからだ。ここまで知り合ってしまって、期限を迎えましたね、それじゃあバイバイと別れられるようなサッパリした性格でもない。
……今はきっと、そこまで思い悩む必要はないかもしれない。期限までまだ二週間はある。そうしたら二週間後にまた同じように悩む日がやってくるはずだ。そのときになれば考えも変わって答えも自然と出てくるだろう。
だから、今俺がやれることは決まっている。ヨルにイルミネーションとクリスマスプレゼントを渡して喜んでもらうことだ。
「喜んでくれるといいな……」
思わず口に出てしまうくらい、俺の中で期待が高まっていた。
紙袋の中には、俺がかけた思いが詰まっている。これで少しでもヨルを暖めてあげられたらいいなと願うばかりだ。
そんな願いを込めながら、俺は帰路についた。
