「これ、ねこ星人だよな」
小さなマシンの中にあったのは、先ほどヨルが狙っていたぬいぐるみと同じキャラクター。ぬいぐるみではなく、小さなキーホルダーだが。
俺に言われてヨルは視線を向ける。目を輝かせたが、それも一瞬のことで。すぐに目を伏せてマシンから目を逸らした。
「結局また獲れないだろうし、今回はいいや」
悲しげに笑うヨル。
それなりにお金を使ってしまったし、諦めるのも潔いし納得がいく。しかし、好きなものを目の前にしてなにもせず諦めてしまうのは、ヨルにとって辛いに違いない。
だったら、俺がやることは決まっている。
「……俺がやってみる」
俺は財布から百円玉を取り出して投入する。マシンを覗き込み、さっきより小さなアームを動かしてキーホルダーに狙いを定めていく。
「朝日はUFOキャッチャー得意なの?」
「苦手だよ」
マシンに集中したせいで簡素な返事になってしまった。それが余計に衝撃を与えていたようで、ヨルは目を丸くしていた。
「じゃあ無理してやらなくていいよ」
「やってみたら獲れるかもしれないだろ」
キーホルダーに狙いを定め、ボタンを押す。キーホルダーの中心に落ちたが、アームはキーホルダーを持ち上げることなく定位置に戻っていった。
悔しいが、俺も一回で獲得できるとは思っていない。再び百円玉を投入し、アームを動かす。
「それに、ヨルに悲しそうな顔してて欲しくないから」
集中していたから、さぞ俺の表情は真剣だっただろう。
流石にカッコつけすぎたかと、口にしたあとに恥ずかしくなってきた。ヨルの顔を見られず、俺はマシンから目を離せなかった。
二回目も獲得できなかったが、キーホルダーは少しだけ獲得口に動いていった。チャンスを逃さず、三回目。獲得できずに四回目。無惨に散って五回目。
「次で獲るから」
意気込んだものの、自ら盛大なフラグを立ててしまった気がする。しかし、絶対に獲得したい。
俺は息を吐き、アームを握って狙いを定める。引っかけるだとかそんなテクニックは俺には持ち合わせていない。とにかく掴めそうな真ん中を狙う。アームがしっかりとキーホルダーを掴んでくれると信じて、ボタンを押す。
アームが降下して、持ち上がる。アームはキーホルダーを持ち上げて――くれなかった。
またか、と落胆しようとしたそのとき、俺は信じられない光景を目にする。
キーホルダーについていた商品タグがアームに引っかかっていた。
「お」
俺の気の抜けた声が出たときには、獲得口にキーホルダーが落ちていた。
「……獲れた」
俺は呆然としたままヨルに視線を移す。ヨルも声が出ないまま俺を見つめていて、自然と顔を見合わせる形になった。
少しの間の沈黙の後、お互いの口角が段々と上がっていく。
「獲れた〜!」
俺たちの喜びの声はフロアに響いていたかもしれない。証拠に近くにいたグループが俺たちの方を見て驚いていた。しかし、そんなことが気にならないくらい嬉しさが俺たちの間を渦巻いていた。
「すごいよ朝日、まさか獲れるなんて!」
「俺も獲れるとは思わなかったよ」
よほど嬉しいのか、俺の手を取って満面の笑みを見せるヨル。こんなに興奮するヨルを俺は初めて見た。俺も獲得できたのはもちろん嬉しいが、ヨルの嬉しそうな表情には敵わない。
「はいこれ」
キーホルダーを渡すと、ヨルはニコリと笑ってキーホルダーを受け取った。
「ありがとう」
先ほどよりはいくらか落ち着いたが、それでも嬉しそうな表情は変わらなかった。
こんなに喜んでくれるなら頑張って狙った甲斐がある。まさかこんな早く獲得できるとは思わなかった。それこそヨルのように何千円もかける覚悟はしていたから。
「せっかくだから鞄につけようかな」
と言って、ヨルは鞄にキーホルダーを取りつける。鞄にぶら下がるキーホルダーは非常に緩く、愛らしい表情をしていた。ヨルもキーホルダーを満足げに眺めていた。
「朝日にUFOキャッチャーの才能があるって分かったし、また獲って欲しいときは朝日に頼もうかな」
「偶然だって。また獲れるとは限らないからな」
興奮冷めやらぬ雰囲気のヨルに思わず苦笑する。
キーホルダーを無事に獲得できたことで、重くなっていた空気も和やかになり、明るさを取り戻してきた気がする。この調子なら他の景品も獲得できるのではと思ったが、またあの空気に戻りたくないという気持ちが勝った。なので調子に乗らずにやめておく。
「そうしたら次はどうする? 満足したし終わりにするか?」
「やりたいことがあるんだけど、いい?」
ヨルが控えめに手を挙げる。どこかそわそわした様子が不思議で、俺は首を傾げる。
「なにをやりたいんだ?」
俺が尋ねると、ヨルはフロアマップの一番上を指差す。
「プリクラ、撮らない?」
ヨルの提案に俺は大きく頷いた。
プリクラは文化祭の打ち上げの後にクラスで撮った以来だ。男女入り混じって撮影ブースに入れるだけ入り、最早写っているのかさえ怪しいくらいのプリクラが出来上がった。完成したプリクラを見たら、案の定写っていない人物が大多数だった。
悲しいことに男子だけではプリクラコーナーには入れないので、ヨルの提案にはすぐに賛成した。
「じゃあ行くか」
小さなマシンの中にあったのは、先ほどヨルが狙っていたぬいぐるみと同じキャラクター。ぬいぐるみではなく、小さなキーホルダーだが。
俺に言われてヨルは視線を向ける。目を輝かせたが、それも一瞬のことで。すぐに目を伏せてマシンから目を逸らした。
「結局また獲れないだろうし、今回はいいや」
悲しげに笑うヨル。
それなりにお金を使ってしまったし、諦めるのも潔いし納得がいく。しかし、好きなものを目の前にしてなにもせず諦めてしまうのは、ヨルにとって辛いに違いない。
だったら、俺がやることは決まっている。
「……俺がやってみる」
俺は財布から百円玉を取り出して投入する。マシンを覗き込み、さっきより小さなアームを動かしてキーホルダーに狙いを定めていく。
「朝日はUFOキャッチャー得意なの?」
「苦手だよ」
マシンに集中したせいで簡素な返事になってしまった。それが余計に衝撃を与えていたようで、ヨルは目を丸くしていた。
「じゃあ無理してやらなくていいよ」
「やってみたら獲れるかもしれないだろ」
キーホルダーに狙いを定め、ボタンを押す。キーホルダーの中心に落ちたが、アームはキーホルダーを持ち上げることなく定位置に戻っていった。
悔しいが、俺も一回で獲得できるとは思っていない。再び百円玉を投入し、アームを動かす。
「それに、ヨルに悲しそうな顔してて欲しくないから」
集中していたから、さぞ俺の表情は真剣だっただろう。
流石にカッコつけすぎたかと、口にしたあとに恥ずかしくなってきた。ヨルの顔を見られず、俺はマシンから目を離せなかった。
二回目も獲得できなかったが、キーホルダーは少しだけ獲得口に動いていった。チャンスを逃さず、三回目。獲得できずに四回目。無惨に散って五回目。
「次で獲るから」
意気込んだものの、自ら盛大なフラグを立ててしまった気がする。しかし、絶対に獲得したい。
俺は息を吐き、アームを握って狙いを定める。引っかけるだとかそんなテクニックは俺には持ち合わせていない。とにかく掴めそうな真ん中を狙う。アームがしっかりとキーホルダーを掴んでくれると信じて、ボタンを押す。
アームが降下して、持ち上がる。アームはキーホルダーを持ち上げて――くれなかった。
またか、と落胆しようとしたそのとき、俺は信じられない光景を目にする。
キーホルダーについていた商品タグがアームに引っかかっていた。
「お」
俺の気の抜けた声が出たときには、獲得口にキーホルダーが落ちていた。
「……獲れた」
俺は呆然としたままヨルに視線を移す。ヨルも声が出ないまま俺を見つめていて、自然と顔を見合わせる形になった。
少しの間の沈黙の後、お互いの口角が段々と上がっていく。
「獲れた〜!」
俺たちの喜びの声はフロアに響いていたかもしれない。証拠に近くにいたグループが俺たちの方を見て驚いていた。しかし、そんなことが気にならないくらい嬉しさが俺たちの間を渦巻いていた。
「すごいよ朝日、まさか獲れるなんて!」
「俺も獲れるとは思わなかったよ」
よほど嬉しいのか、俺の手を取って満面の笑みを見せるヨル。こんなに興奮するヨルを俺は初めて見た。俺も獲得できたのはもちろん嬉しいが、ヨルの嬉しそうな表情には敵わない。
「はいこれ」
キーホルダーを渡すと、ヨルはニコリと笑ってキーホルダーを受け取った。
「ありがとう」
先ほどよりはいくらか落ち着いたが、それでも嬉しそうな表情は変わらなかった。
こんなに喜んでくれるなら頑張って狙った甲斐がある。まさかこんな早く獲得できるとは思わなかった。それこそヨルのように何千円もかける覚悟はしていたから。
「せっかくだから鞄につけようかな」
と言って、ヨルは鞄にキーホルダーを取りつける。鞄にぶら下がるキーホルダーは非常に緩く、愛らしい表情をしていた。ヨルもキーホルダーを満足げに眺めていた。
「朝日にUFOキャッチャーの才能があるって分かったし、また獲って欲しいときは朝日に頼もうかな」
「偶然だって。また獲れるとは限らないからな」
興奮冷めやらぬ雰囲気のヨルに思わず苦笑する。
キーホルダーを無事に獲得できたことで、重くなっていた空気も和やかになり、明るさを取り戻してきた気がする。この調子なら他の景品も獲得できるのではと思ったが、またあの空気に戻りたくないという気持ちが勝った。なので調子に乗らずにやめておく。
「そうしたら次はどうする? 満足したし終わりにするか?」
「やりたいことがあるんだけど、いい?」
ヨルが控えめに手を挙げる。どこかそわそわした様子が不思議で、俺は首を傾げる。
「なにをやりたいんだ?」
俺が尋ねると、ヨルはフロアマップの一番上を指差す。
「プリクラ、撮らない?」
ヨルの提案に俺は大きく頷いた。
プリクラは文化祭の打ち上げの後にクラスで撮った以来だ。男女入り混じって撮影ブースに入れるだけ入り、最早写っているのかさえ怪しいくらいのプリクラが出来上がった。完成したプリクラを見たら、案の定写っていない人物が大多数だった。
悲しいことに男子だけではプリクラコーナーには入れないので、ヨルの提案にはすぐに賛成した。
「じゃあ行くか」
