試験の打ち上げと称してカラオケ店に向かっていた美波は、渡り廊下から周平に見られていることに微塵も気付いていなかった。
本来であれば今日の午後からは部活があったのだが、仲の良いクラスメートに誘われたため出ないことに決めた。天ヶ崎高校の女子バスケットボール部は、毎年県大会の予選で敗退するレベルである。そのレベルの部活動なのに「部活があるから」と言って、クラスメートたちの高揚したテンションに水を差したくはなかったのだ。それに、同じバスケットボール部の北方が「部活に参加しない」と宣言するのであれば、美波が参加する理由も薄れてしまう。
「どこ行く?」
「いつものトコでいいんじゃね」
「あーアタシ割引券持ってるよー」
「じゃあ、そこ行こうか」
「おー!!」
校門を出た所で、誰かが何となく意見を求める。それが呼び水になり、一緒に歩いてたメンバーが次々に口を開く。打ち上げと言ってもクラス全体のものではなく、特に仲が良い顔ぶれで遊びに行く、といった感じである。メンバーは美波と北方を中心とした、クラス内でも目立つ生徒ばかりだ。各々がクラス内での立ち位置を自覚していて、自分たちが特別な存在だと認識している。
ここに揃っている6人の中でも美波と北方は、2年3組の中だけではなく学年でも結構な有名人だ。美波は容姿端麗であることはもちろん、誰とでも気さくに接する人柄で、常に明るく前向きな言動をするタイプだ。悩み多き思春期真っ只中の高校生にとっては、特別に眩しい存在に違いない。入学当時から告白されることが多かったものの、全員が予想通り見事に撃沈した。2年生になって北方と一緒にいることが多くなり、チャレンジャーが急激に少なくなった。
北方は弱小とはいえ男子バスケットボール部の中心選手であり、身長が180センチ近くある雰囲気イケメンだ。元々同じ部活であることから美波と交流はあったが、2年生になって同じクラスになったことがきっかけで、常に一緒に行動するようになった。その様子を目にした恋愛チャレンジャーたちが、勝手に彼氏だと勘違いして諦めたのだ。美波がどういうつもりなのかは不明であるが、北方は誰の目から見ても熱烈なアプローチを続けている。
6人がゾロゾロと駅方面に歩いて行く。
さすがに学校の近くには遊び場は存在しないが、駅前通りまで移動すると周囲の建物が急に高くなる。そして、駅前のロータリー付近に辿り着いたところで、真正面に目的地であるカラオケ店の看板が目の前に見えた。天ヶ崎高校の生徒が利用するカラオケ店としては、一番人気がある店舗だ。駅前で立地が良いということもあるが、何よりも利用料金の安さが高校生を呼び込んでいる。
美波たちが建物の中に入ると、同じ制服姿を着た高校生が利用手続きをしていた。北方を先頭にして、その後ろに並んで順番を待つ。
「やっぱ、今日は多いな」
「うん、でも、大丈夫だよ。さすがに満室ってことはないでしょ」
北方の呟きを、いつものように美波が拾う。
「オマエら、いつも息がピッタリだな」
「ホント、熟練の夫婦みたいだよね」
それを見ていた岩田と川名が、ニヤニヤしながら揶揄う。
美波と北方は、実際に付き合っている訳ではない。ただ、その場の雰囲気を重視する美波は、それを頭ごなしに否定することはせず、笑いながら受け流す。北方にとって美波は、「彼女にしたい」だけの対象なのかも知れない。しかし、美波にとってはそんな単純な問題ではなかった。
「そういや、太陽フレアが何ちゃらってニュース見たか?」
受付の順番待ちをしている間、北方が5人に向かって話題を提供する。
「うん、あの電磁波がどうとかで、スマホが使えなくなるってヤツだよね」
「そうそう」
「まあ、いつものアレっしょ。実際に当日になると何も起きないっていう、お約束的な」
水川が反応し、それを井口が笑いながら受け継ぐ。話題を振った北方さえネタっとしか思っていないニュースであるため、その場にいた全員が井口の言葉に同意する。よくある予言や陰謀論が、未だかつて本当だったことはない。当然、今回もそうなるとしか思っていなかった。
「ねえねえ、スマホが使えなくなって困ったときはさ、2年3組に集合するってことにしない?」
「いいねえ」
「昭和っぽく黒板に伝言残すことにしとかねえ?」
「いいじゃん、それ」
「オレたちだけの約束ってことで」
「じゃあ、これで決まりな」
美波の提案に全員が乗っかり、最後を北方が締めた。
この時、美波は本気で提案していたのだが、他の5人の認識とは明確な温度差があったことに気付いていなかった。
本来であれば今日の午後からは部活があったのだが、仲の良いクラスメートに誘われたため出ないことに決めた。天ヶ崎高校の女子バスケットボール部は、毎年県大会の予選で敗退するレベルである。そのレベルの部活動なのに「部活があるから」と言って、クラスメートたちの高揚したテンションに水を差したくはなかったのだ。それに、同じバスケットボール部の北方が「部活に参加しない」と宣言するのであれば、美波が参加する理由も薄れてしまう。
「どこ行く?」
「いつものトコでいいんじゃね」
「あーアタシ割引券持ってるよー」
「じゃあ、そこ行こうか」
「おー!!」
校門を出た所で、誰かが何となく意見を求める。それが呼び水になり、一緒に歩いてたメンバーが次々に口を開く。打ち上げと言ってもクラス全体のものではなく、特に仲が良い顔ぶれで遊びに行く、といった感じである。メンバーは美波と北方を中心とした、クラス内でも目立つ生徒ばかりだ。各々がクラス内での立ち位置を自覚していて、自分たちが特別な存在だと認識している。
ここに揃っている6人の中でも美波と北方は、2年3組の中だけではなく学年でも結構な有名人だ。美波は容姿端麗であることはもちろん、誰とでも気さくに接する人柄で、常に明るく前向きな言動をするタイプだ。悩み多き思春期真っ只中の高校生にとっては、特別に眩しい存在に違いない。入学当時から告白されることが多かったものの、全員が予想通り見事に撃沈した。2年生になって北方と一緒にいることが多くなり、チャレンジャーが急激に少なくなった。
北方は弱小とはいえ男子バスケットボール部の中心選手であり、身長が180センチ近くある雰囲気イケメンだ。元々同じ部活であることから美波と交流はあったが、2年生になって同じクラスになったことがきっかけで、常に一緒に行動するようになった。その様子を目にした恋愛チャレンジャーたちが、勝手に彼氏だと勘違いして諦めたのだ。美波がどういうつもりなのかは不明であるが、北方は誰の目から見ても熱烈なアプローチを続けている。
6人がゾロゾロと駅方面に歩いて行く。
さすがに学校の近くには遊び場は存在しないが、駅前通りまで移動すると周囲の建物が急に高くなる。そして、駅前のロータリー付近に辿り着いたところで、真正面に目的地であるカラオケ店の看板が目の前に見えた。天ヶ崎高校の生徒が利用するカラオケ店としては、一番人気がある店舗だ。駅前で立地が良いということもあるが、何よりも利用料金の安さが高校生を呼び込んでいる。
美波たちが建物の中に入ると、同じ制服姿を着た高校生が利用手続きをしていた。北方を先頭にして、その後ろに並んで順番を待つ。
「やっぱ、今日は多いな」
「うん、でも、大丈夫だよ。さすがに満室ってことはないでしょ」
北方の呟きを、いつものように美波が拾う。
「オマエら、いつも息がピッタリだな」
「ホント、熟練の夫婦みたいだよね」
それを見ていた岩田と川名が、ニヤニヤしながら揶揄う。
美波と北方は、実際に付き合っている訳ではない。ただ、その場の雰囲気を重視する美波は、それを頭ごなしに否定することはせず、笑いながら受け流す。北方にとって美波は、「彼女にしたい」だけの対象なのかも知れない。しかし、美波にとってはそんな単純な問題ではなかった。
「そういや、太陽フレアが何ちゃらってニュース見たか?」
受付の順番待ちをしている間、北方が5人に向かって話題を提供する。
「うん、あの電磁波がどうとかで、スマホが使えなくなるってヤツだよね」
「そうそう」
「まあ、いつものアレっしょ。実際に当日になると何も起きないっていう、お約束的な」
水川が反応し、それを井口が笑いながら受け継ぐ。話題を振った北方さえネタっとしか思っていないニュースであるため、その場にいた全員が井口の言葉に同意する。よくある予言や陰謀論が、未だかつて本当だったことはない。当然、今回もそうなるとしか思っていなかった。
「ねえねえ、スマホが使えなくなって困ったときはさ、2年3組に集合するってことにしない?」
「いいねえ」
「昭和っぽく黒板に伝言残すことにしとかねえ?」
「いいじゃん、それ」
「オレたちだけの約束ってことで」
「じゃあ、これで決まりな」
美波の提案に全員が乗っかり、最後を北方が締めた。
この時、美波は本気で提案していたのだが、他の5人の認識とは明確な温度差があったことに気付いていなかった。


