「えーっと、そんなに真剣な表情で見詰められても、目新しい情報がある訳ではないのだがね。ハッキリ言うとだね、暑苦しいから離れてくれたまえ」
中央の応接セットに移動した周平は、期待を込めて凛音を凝視していた。その熱視線で体幹温度が上昇したのか。凛音が本気で嫌そうな表情を見せる。
「だそうだ。これでも食べて落ち着け」
周平をソファーに座らせ、拓真が紙袋に入ったクッキーをテーブルの上に置いた。
「ありがとうございます」
ひとまず乗り出していた身体をソファーの上に戻し、周平は拓真が置いた紙袋に手を突っ込んだ。
拓真特製のクッキーは入部した時点で十分に美味しかったが、今やプロを含めたスイーツのコンクールで金賞が狙えるレベルに達している。しかし、咀嚼を繰り返すうちに、周平に僅かな疑問が生じ、それはどんどん大きくなっていった。「夏のクソ暑い日に、チョコチップクッキーは有り得ないでしょ」と。
「さて、各々の手も私が持っていたウエットティッシュでリフレッシュしたことだし、そろそろ本題に入ろうか。
電磁嵐についてだが、テレビや新聞の記事になったいる以上の情報はない。インターネット関連の全てが使用不可。物理的な接点が無いものは全く役に立たない。情報は限定的でリアルタイムで入手できる可能性は低い。下手をすると数日遅れてくる可能性もある。夏休み中この状況が続くことも、十分に考えられる」
凛音の説明に周平が頷く。周平の認識との誤差があまり無かったからだ。
「とはいえ、そんなに悲観する状況ではない、とも思う。
考えてみたまえ。この状況は昭和と同じなのだよ。令和、平成、昭和と遡れば随分と昔のような気がするが、ほんの30年から40年前の話だ。当時はインターネットなど無かったし、携帯電話は背負うほどのサイズだったらしい。友人との連絡はコードが付いた電話だったし、遠方の友人ともなれば往復に1週間以上必要な手紙だったのだ。令和と昭和、どちらが異常かと言えば、個人的には令和だと思うのだよ」
凛音の言葉を受け、続けて拓真が口を開く。
「以前親戚のおじさんから聞いたことがあるが、彼女に電話ひとつするだけでも大変だったらしいぞ。今みたいに個々が電話を持っている時代ではなかったからな。各家に1つしかない電話を鳴らさなければならない。当然、本人が出るとは限らない。親が出れば挨拶は必要になるし、言葉遣いも気を付けなければならない。電話機を占領する訳にはいかないから、本当に伝えなければならない話しをする」
「そうなんですか、今では考えられないですね」
周平が相槌を打つと、凛音が拓真の話しを受けて続ける。
「確かに、今と比較すれば不便だとは思う。だがね、私は本来そうあるべきだとも思うのだよ。
今は、いつでも、誰に遠慮することもなく、気軽に連絡ができる。簡単に、思ったまま、感じたまま伝えることができる。便利にはなった。だが、いつでも繋がることができるからこそ、関係性が希薄になっている気がするのだ。言葉が軽くなっている気がするのだよ。だから、私は、この電磁嵐は警鐘ではないかと考えている―――と、柄にもないことを口にしたが、いずれにしても」
「いずれにしても?」
「友だちがいないキミには、関係のないことかも知れないがね」
凛音の言葉に拓真までもが同意して頷く。失敬な!と思いつつも、言い返すことができない周平は、その場で項垂れることしかできなかった。
「それとは別に、気になることがあるのだ」
性懲りも無くチョコチップクッキーを手にした凛音が、どこから持ってきたのか、縦横が1メートル以上ある日本地図をテーブルの上に広げる。そして、自分の机の上から赤ペンを手に取り、地図上に赤丸で印を付けていく。その数4箇所。
「熊本、大分、徳島、天秤市・・・これって」
声に出して場所の確認をしていた周平が、天秤市にマーキングされていたことで気付く。
「そう、これは昨日の18時45分以降に地震が発生した場所だ。震度にバラつきはあるが、ある一定の法則によって発生してる」
「中央構造線ですね」
周平が答え口にすると、拓真と凛音が同時に驚いた。
「よく分かったな」
「正解だ。理由は分からないが、電磁嵐が日本を襲った直後から、中央構造線沿いで地震が発生している。中央構造線は日本列島の真下にある断層の中で最大のものだ。南海トラフのように過去のデータがあれば、ある程度の周期が分かるかも知れない。しかし、この中央構造線には過去のデータが存在しない。まあ、そもそも、電磁嵐との関係性があるとは思えないのだがね」
凛音の説明はそこで終わった。
その関連性について、周平には思い当たることがあった。しかし、神主に聞いた話を無断で口外できないため、その場で未来記や邪馬台詩については口にしなかった。
中央の応接セットに移動した周平は、期待を込めて凛音を凝視していた。その熱視線で体幹温度が上昇したのか。凛音が本気で嫌そうな表情を見せる。
「だそうだ。これでも食べて落ち着け」
周平をソファーに座らせ、拓真が紙袋に入ったクッキーをテーブルの上に置いた。
「ありがとうございます」
ひとまず乗り出していた身体をソファーの上に戻し、周平は拓真が置いた紙袋に手を突っ込んだ。
拓真特製のクッキーは入部した時点で十分に美味しかったが、今やプロを含めたスイーツのコンクールで金賞が狙えるレベルに達している。しかし、咀嚼を繰り返すうちに、周平に僅かな疑問が生じ、それはどんどん大きくなっていった。「夏のクソ暑い日に、チョコチップクッキーは有り得ないでしょ」と。
「さて、各々の手も私が持っていたウエットティッシュでリフレッシュしたことだし、そろそろ本題に入ろうか。
電磁嵐についてだが、テレビや新聞の記事になったいる以上の情報はない。インターネット関連の全てが使用不可。物理的な接点が無いものは全く役に立たない。情報は限定的でリアルタイムで入手できる可能性は低い。下手をすると数日遅れてくる可能性もある。夏休み中この状況が続くことも、十分に考えられる」
凛音の説明に周平が頷く。周平の認識との誤差があまり無かったからだ。
「とはいえ、そんなに悲観する状況ではない、とも思う。
考えてみたまえ。この状況は昭和と同じなのだよ。令和、平成、昭和と遡れば随分と昔のような気がするが、ほんの30年から40年前の話だ。当時はインターネットなど無かったし、携帯電話は背負うほどのサイズだったらしい。友人との連絡はコードが付いた電話だったし、遠方の友人ともなれば往復に1週間以上必要な手紙だったのだ。令和と昭和、どちらが異常かと言えば、個人的には令和だと思うのだよ」
凛音の言葉を受け、続けて拓真が口を開く。
「以前親戚のおじさんから聞いたことがあるが、彼女に電話ひとつするだけでも大変だったらしいぞ。今みたいに個々が電話を持っている時代ではなかったからな。各家に1つしかない電話を鳴らさなければならない。当然、本人が出るとは限らない。親が出れば挨拶は必要になるし、言葉遣いも気を付けなければならない。電話機を占領する訳にはいかないから、本当に伝えなければならない話しをする」
「そうなんですか、今では考えられないですね」
周平が相槌を打つと、凛音が拓真の話しを受けて続ける。
「確かに、今と比較すれば不便だとは思う。だがね、私は本来そうあるべきだとも思うのだよ。
今は、いつでも、誰に遠慮することもなく、気軽に連絡ができる。簡単に、思ったまま、感じたまま伝えることができる。便利にはなった。だが、いつでも繋がることができるからこそ、関係性が希薄になっている気がするのだ。言葉が軽くなっている気がするのだよ。だから、私は、この電磁嵐は警鐘ではないかと考えている―――と、柄にもないことを口にしたが、いずれにしても」
「いずれにしても?」
「友だちがいないキミには、関係のないことかも知れないがね」
凛音の言葉に拓真までもが同意して頷く。失敬な!と思いつつも、言い返すことができない周平は、その場で項垂れることしかできなかった。
「それとは別に、気になることがあるのだ」
性懲りも無くチョコチップクッキーを手にした凛音が、どこから持ってきたのか、縦横が1メートル以上ある日本地図をテーブルの上に広げる。そして、自分の机の上から赤ペンを手に取り、地図上に赤丸で印を付けていく。その数4箇所。
「熊本、大分、徳島、天秤市・・・これって」
声に出して場所の確認をしていた周平が、天秤市にマーキングされていたことで気付く。
「そう、これは昨日の18時45分以降に地震が発生した場所だ。震度にバラつきはあるが、ある一定の法則によって発生してる」
「中央構造線ですね」
周平が答え口にすると、拓真と凛音が同時に驚いた。
「よく分かったな」
「正解だ。理由は分からないが、電磁嵐が日本を襲った直後から、中央構造線沿いで地震が発生している。中央構造線は日本列島の真下にある断層の中で最大のものだ。南海トラフのように過去のデータがあれば、ある程度の周期が分かるかも知れない。しかし、この中央構造線には過去のデータが存在しない。まあ、そもそも、電磁嵐との関係性があるとは思えないのだがね」
凛音の説明はそこで終わった。
その関連性について、周平には思い当たることがあった。しかし、神主に聞いた話を無断で口外できないため、その場で未来記や邪馬台詩については口にしなかった。


