その日、周平は拓真が注意喚起をした電波障害について、ネット内の情報を確認していた。発信元によって記事の内容はまちまちで一貫性はなかったが、今日中に何らかの影響はありそうな感じはした。
周平がそんな内容の記事ばかりを読んでいると、隣の席から画面を覗き込んできた千代が大きなタメ息を吐く。
「やっぱ、電波が不安定になったりしそうだよね。友達とやりとりするのも全部ネット利用しているしさ、繋がり難くなったりしたら困るよ。まあ、アンタには関係ないけどさ」
そう言った千代に肩を突つかれた周平は、身を引きながら反論する。
「ふん。別に、誰かと話したいとも思わないし、繋がっていたいとかも全然ないけどね」
悪態をつく周平に、千代はニヤニヤと笑いながら更に言葉を重ねる。
「そうは言ってもさ、ちょっと寂しいときとか、寝る前に誰かと話しをしたいとか。それに、最近では、告白とかもSNSだよ。下駄箱に手紙とか、校舎の裏に呼び出してとか、そんなことしてる人とかいないよ」
「そんなものなのか」と、同年代の事情に疎い周平は千代の話しを受け入れる。
ただ、日ごろ邪馬台詩などの文章を読み解こうとしてる周平には、その行為にあまり意味を見出さなかった。
千代との会話が途切れた周平は、窓の外が赤く染まり始めていることに気付いた。パソコン画面の隅に表示されている時刻を確認し、周平はバタバタと帰り支度を始める。今日は、先日会った占い師に、もう一度話しを聞きに行こうと決めていたのだ。
「どうしたの?」
千代に問われた周平は、秘密にすることでもないため本当のことを答える。
「商店街の占い師に会いに行こうかと思ってるんだ」
「ああ、そこ、今度私も連れて行ってくれる?」
「まあ、気が向いたらな」
いい笑顔を作って千代に答えると、先輩たちに挨拶をして周平は部室を出た。
―――――周平がオカルト研究部の部室を後にした頃。
美波もまた、いつもより早く始まった部活が終わり、同じように電車通学をしている部員とともに駅に向かっていた。一緒に歩いている友達と会話をしながら、美波はここ最近のことを思い出してタメ息を吐く。
夏休み直前だからなのか、北方からのアプローチが激しくなっていたのだ。真相を知る前であれば少しは付き合う気にもなったかも知れないが、今となっては2人きりで外出するとか本当に有り得ない。
乗車区間がたった一駅であるため、すぐに他の部員に手を振って別れて下車する。
いつものように改札を抜けると、不意に声を掛けられた。
「美波っ」
聞き慣れた声に振り返ると、そこに電車通学ではないはずの北方が立っていた。しかも、いつもは「春瀬」であるにも関わらず、名前で呼び止められた。名前で呼ばれた瞬間、美波の背筋を悪寒が駆け抜けた。
「あ、北方君、この駅にいるってことは、商店街に用事があるの?」
美波は平静を装い、いつもの口調で問い掛ける。すると、北方は何をどう考えているのか、有り得ないことを口走る。
「いや、学校ではあまり話しもできないし、美波ともっと一緒にいたいと思って追い掛けてきたんだ」
あの日以来、美波は北方と2人きりになることを避けてきた。そのため、必然的に言葉を交わす回数も目に見えて減った。それは、おそらく北方本人も自覚していたはずだ。しかも、今朝は紗弥が可成に謝罪に訪れていた。当事者である北方が何か感じ取っていても不思議ではない。美波にとっては悪い意味で、北方は勝負に出た可能性が高い。
美波は思案を巡らしながら、商店街に向かって歩き始める。北方が自分に会いに来ている以上、このまま自宅に帰る訳にはいかなかった。
商店街への道を歩く美波の横に、小走りで近付いて来た北方が並ぶ。
「なあ、なあ、美波―――」
ヘラヘラと笑いながら、北方は馴れ馴れしく美波の名前を呼ぶ。その度に美波は嫌悪感を覚えるが、北方がそれに気付く様子はない。本屋に立ち寄るなどして時間を潰し何となく別れるなど、どうにか北方と離れる手段を考えなければならない。美波は相槌を打ちながら、この状況を打破する方法を必死に考える。しかし、この近くにそんなに都合の良い施設はない。
商店街のアーケード下に入ると、北方がファーストフード店を指差して言う。
「ちょっと寄って行かね?限定商品出てるらしいし」
「うん、でも、お金持ってないから」
「オレが奢るって。なあ、入ろうぜ」
遠まわしな断り文句に気付くはずもなく、北方は通り過ぎるまで何度も美波を誘う。それを「また今度ね」と言って美波はどうにかやり過ごす。このまま商店街を歩き続けていると同じことを繰り返さなければならないため、美波は商店街の外れにある書店を目指すことにした。
天秤市は中規模都市とはいえ、商店街の規模はそれなりに大きい。駅側から繁華街へと続くアーケードは数百メートルはある。帰宅途中の会社員や学生など、美波と同じように繁華街方面へと向かう人々で夕暮れ時は人通りが多い。「人波を利用してはぐれることができれば」と少し早歩きをしてみるが、北方は向かって来る人流れを無視して美波の隣を維持している。
内心で深いタメ息を吐き、全国チェーンの書店に到着すると中に入ろうと美波は自動ドアに向かう。そのときだった。
「そこのお嬢さん、ちょっといいかい?」
どこからともなく聞こえてきた声が、美波を呼び止めた。
周平がそんな内容の記事ばかりを読んでいると、隣の席から画面を覗き込んできた千代が大きなタメ息を吐く。
「やっぱ、電波が不安定になったりしそうだよね。友達とやりとりするのも全部ネット利用しているしさ、繋がり難くなったりしたら困るよ。まあ、アンタには関係ないけどさ」
そう言った千代に肩を突つかれた周平は、身を引きながら反論する。
「ふん。別に、誰かと話したいとも思わないし、繋がっていたいとかも全然ないけどね」
悪態をつく周平に、千代はニヤニヤと笑いながら更に言葉を重ねる。
「そうは言ってもさ、ちょっと寂しいときとか、寝る前に誰かと話しをしたいとか。それに、最近では、告白とかもSNSだよ。下駄箱に手紙とか、校舎の裏に呼び出してとか、そんなことしてる人とかいないよ」
「そんなものなのか」と、同年代の事情に疎い周平は千代の話しを受け入れる。
ただ、日ごろ邪馬台詩などの文章を読み解こうとしてる周平には、その行為にあまり意味を見出さなかった。
千代との会話が途切れた周平は、窓の外が赤く染まり始めていることに気付いた。パソコン画面の隅に表示されている時刻を確認し、周平はバタバタと帰り支度を始める。今日は、先日会った占い師に、もう一度話しを聞きに行こうと決めていたのだ。
「どうしたの?」
千代に問われた周平は、秘密にすることでもないため本当のことを答える。
「商店街の占い師に会いに行こうかと思ってるんだ」
「ああ、そこ、今度私も連れて行ってくれる?」
「まあ、気が向いたらな」
いい笑顔を作って千代に答えると、先輩たちに挨拶をして周平は部室を出た。
―――――周平がオカルト研究部の部室を後にした頃。
美波もまた、いつもより早く始まった部活が終わり、同じように電車通学をしている部員とともに駅に向かっていた。一緒に歩いている友達と会話をしながら、美波はここ最近のことを思い出してタメ息を吐く。
夏休み直前だからなのか、北方からのアプローチが激しくなっていたのだ。真相を知る前であれば少しは付き合う気にもなったかも知れないが、今となっては2人きりで外出するとか本当に有り得ない。
乗車区間がたった一駅であるため、すぐに他の部員に手を振って別れて下車する。
いつものように改札を抜けると、不意に声を掛けられた。
「美波っ」
聞き慣れた声に振り返ると、そこに電車通学ではないはずの北方が立っていた。しかも、いつもは「春瀬」であるにも関わらず、名前で呼び止められた。名前で呼ばれた瞬間、美波の背筋を悪寒が駆け抜けた。
「あ、北方君、この駅にいるってことは、商店街に用事があるの?」
美波は平静を装い、いつもの口調で問い掛ける。すると、北方は何をどう考えているのか、有り得ないことを口走る。
「いや、学校ではあまり話しもできないし、美波ともっと一緒にいたいと思って追い掛けてきたんだ」
あの日以来、美波は北方と2人きりになることを避けてきた。そのため、必然的に言葉を交わす回数も目に見えて減った。それは、おそらく北方本人も自覚していたはずだ。しかも、今朝は紗弥が可成に謝罪に訪れていた。当事者である北方が何か感じ取っていても不思議ではない。美波にとっては悪い意味で、北方は勝負に出た可能性が高い。
美波は思案を巡らしながら、商店街に向かって歩き始める。北方が自分に会いに来ている以上、このまま自宅に帰る訳にはいかなかった。
商店街への道を歩く美波の横に、小走りで近付いて来た北方が並ぶ。
「なあ、なあ、美波―――」
ヘラヘラと笑いながら、北方は馴れ馴れしく美波の名前を呼ぶ。その度に美波は嫌悪感を覚えるが、北方がそれに気付く様子はない。本屋に立ち寄るなどして時間を潰し何となく別れるなど、どうにか北方と離れる手段を考えなければならない。美波は相槌を打ちながら、この状況を打破する方法を必死に考える。しかし、この近くにそんなに都合の良い施設はない。
商店街のアーケード下に入ると、北方がファーストフード店を指差して言う。
「ちょっと寄って行かね?限定商品出てるらしいし」
「うん、でも、お金持ってないから」
「オレが奢るって。なあ、入ろうぜ」
遠まわしな断り文句に気付くはずもなく、北方は通り過ぎるまで何度も美波を誘う。それを「また今度ね」と言って美波はどうにかやり過ごす。このまま商店街を歩き続けていると同じことを繰り返さなければならないため、美波は商店街の外れにある書店を目指すことにした。
天秤市は中規模都市とはいえ、商店街の規模はそれなりに大きい。駅側から繁華街へと続くアーケードは数百メートルはある。帰宅途中の会社員や学生など、美波と同じように繁華街方面へと向かう人々で夕暮れ時は人通りが多い。「人波を利用してはぐれることができれば」と少し早歩きをしてみるが、北方は向かって来る人流れを無視して美波の隣を維持している。
内心で深いタメ息を吐き、全国チェーンの書店に到着すると中に入ろうと美波は自動ドアに向かう。そのときだった。
「そこのお嬢さん、ちょっといいかい?」
どこからともなく聞こえてきた声が、美波を呼び止めた。


