終業式の日、登校した周平の席に、千代が小走りで近付いて来た。
「ちょっとだけ、いい?」
周平が顔を上げると、いつもとは違う神妙な顔の千代がいた。何かすごい手伝いをさせられるかと身構えた周平だったが、どうやら千代自身の用事ではなさそうだった。千代の視線は、教室の扉に向けられている。そこには、ショートカットの女子生徒の姿があった。
よく分からないまま千代について行くと、周平はその女子生徒に深々と頭を下げられた。
「ごめんなさい」
「な、何これ?ドッキリ? というか、誰?」
唐突に見知らぬ女子生徒から謝罪を受けるという、意味不明な状況に周平は困惑する。助けを求めようと顔を向けると、千代は女子生徒を見ながら苦笑いをしていた。
「えっと、朝倉さんなんだけど・・・覚えてないか。中学2年生のとき、私たちと同じクラスだったんだよ」
千代の言葉に周平の表情が歪む。
もう随分と前に過ぎ去った出来事ではあるが、あの頃のことは今でも鮮明に覚えている。忘れられるはずもない。
「謝ってすむことではないし、今さら、今になって謝ってもどうにもならないけど、本当にごめんなさい」
多くの説明は必要なかった。何がどうだったのか、誰が何をしたのか、被害者であった周平は経緯を含め全てを十分に把握していた。
「この前、体育館でシュートをする姿を見て、この高校にいることを知って・・・ごめんなさい。私たちの、違う、私のせいで、本当にごめんなさい。今さら謝ってすむことではないし、私の自己満足かも知れない。許して欲しいなんて思わない。でも、どうしても、謝りたくて。冷静に考えれば、噂が違うことなんかすぐに分かったのに。ううん、何を言っても言い訳にしかならないね。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
肩を小刻み震わせながら頭を下げ続けるかつてのクラスメートを前にし、周平はどうすればいいのか分からなかった。忘れられない過去ではあるが、許すとか許さないとか、もうどうでも良かった。過ぎた時間は戻らないし、無くした感情も元には戻らない。
「分かった。謝罪を受け取るよ」
周平はそう告げると、恐る恐る顔を上げる紗弥と目を合わせることもなく教室の中へと戻って行った。嗚咽を漏らす紗弥の肩を抱き、表情を歪めた千代を廊下に残したままで。
そんな3人のやり取りを、教室の中から美波が見ていた。
千代に呼ばれて廊下に出て行く周平。そして、廊下で待っていたのは、懺悔とともに美波に事情を教えてくれた紗弥。頭を下げ続ける紗弥を見れば、そこで何が行われたのかは容易に想像ができる。
そうなると、やはり問題なのは北方だ。少なくとも、北方は周平の元チームメートということになる。クラスメートになった可成に、3ヶ月も気付かないはずもない。それなのに、これまで北方が周平に話し掛けているところを見たことはないし、当然のように謝罪した様子もない。そもそも、嘘の情報を流したのはバスケットボール部の部員だ。北方が発生源という可能性も有り得る。
紗弥に話しを聞いて以来、美波は北方とあまり会話をしなくなった。顔を見るだけでもイライラしてまうため、必然的に避けるようになったのだ。北方の自分に対する好意も分かっているだけに、気持ちが悪かった。顔に出さないように、いつもと同じようにと心掛けてはいるものの、隠し切れるものでもない。
「はあ」と、美波が溜めていた息を吐き出した。
しかし、北方もまた3人の姿を見ていたことに、美波は全く気付いていなかった。
その後、無事に終業式が終わり、待ちに待った夏休みが始まった。
特にやることが無い周平は、当たり前のようにオカルト研究部に向かう。天秤神社で見聞きした事柄は完璧にまとめてあるが、まだまだ分からないことが多かった。終焉の刻は目前に迫っている。はずではあるが、何がきっかけで起きるかなど、未だに何も分かっていないのだ。
「お疲れ様です」
周平が部室に到着すると、既に先輩2人は自分の席に座っていた。自分の席に座っているということは、凛音の扇風機ブームがようやく終焉の刻を迎えたということだ。扇風機に飽きることが終焉の刻であれば良いのに。と、周平は90パーセント以上本気で思った。
「そういえば、超強力な電磁波は本当に地球を襲うようだぞ」
副部長の拓真が腕組みをしながら、パソコンの画面を見詰めている。それを聞いた凛音が情報の補足をする。
「地球防衛軍からの情報によると、今日の夕方には電波がナチュラルにジャミングされるため、スマホ等の電波を利用する電子機器は使用できなる。ネットでの調べものなどがあるなら、早いうちに見ておきたまえ。少なくとも2週間は続くということだからね」
地球防衛軍ってどこにあるんだよ。と思ったものの、周平は神妙にな顔で応えた。
「大丈夫です。SNSで繋がっているのは、オカルト研究部の3人だけですから」
その言葉を聞き、凛音の扇風機ブームが再来し、拓真はカバンから新作のクッキーを取り出した。
「ちょっとだけ、いい?」
周平が顔を上げると、いつもとは違う神妙な顔の千代がいた。何かすごい手伝いをさせられるかと身構えた周平だったが、どうやら千代自身の用事ではなさそうだった。千代の視線は、教室の扉に向けられている。そこには、ショートカットの女子生徒の姿があった。
よく分からないまま千代について行くと、周平はその女子生徒に深々と頭を下げられた。
「ごめんなさい」
「な、何これ?ドッキリ? というか、誰?」
唐突に見知らぬ女子生徒から謝罪を受けるという、意味不明な状況に周平は困惑する。助けを求めようと顔を向けると、千代は女子生徒を見ながら苦笑いをしていた。
「えっと、朝倉さんなんだけど・・・覚えてないか。中学2年生のとき、私たちと同じクラスだったんだよ」
千代の言葉に周平の表情が歪む。
もう随分と前に過ぎ去った出来事ではあるが、あの頃のことは今でも鮮明に覚えている。忘れられるはずもない。
「謝ってすむことではないし、今さら、今になって謝ってもどうにもならないけど、本当にごめんなさい」
多くの説明は必要なかった。何がどうだったのか、誰が何をしたのか、被害者であった周平は経緯を含め全てを十分に把握していた。
「この前、体育館でシュートをする姿を見て、この高校にいることを知って・・・ごめんなさい。私たちの、違う、私のせいで、本当にごめんなさい。今さら謝ってすむことではないし、私の自己満足かも知れない。許して欲しいなんて思わない。でも、どうしても、謝りたくて。冷静に考えれば、噂が違うことなんかすぐに分かったのに。ううん、何を言っても言い訳にしかならないね。ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」
肩を小刻み震わせながら頭を下げ続けるかつてのクラスメートを前にし、周平はどうすればいいのか分からなかった。忘れられない過去ではあるが、許すとか許さないとか、もうどうでも良かった。過ぎた時間は戻らないし、無くした感情も元には戻らない。
「分かった。謝罪を受け取るよ」
周平はそう告げると、恐る恐る顔を上げる紗弥と目を合わせることもなく教室の中へと戻って行った。嗚咽を漏らす紗弥の肩を抱き、表情を歪めた千代を廊下に残したままで。
そんな3人のやり取りを、教室の中から美波が見ていた。
千代に呼ばれて廊下に出て行く周平。そして、廊下で待っていたのは、懺悔とともに美波に事情を教えてくれた紗弥。頭を下げ続ける紗弥を見れば、そこで何が行われたのかは容易に想像ができる。
そうなると、やはり問題なのは北方だ。少なくとも、北方は周平の元チームメートということになる。クラスメートになった可成に、3ヶ月も気付かないはずもない。それなのに、これまで北方が周平に話し掛けているところを見たことはないし、当然のように謝罪した様子もない。そもそも、嘘の情報を流したのはバスケットボール部の部員だ。北方が発生源という可能性も有り得る。
紗弥に話しを聞いて以来、美波は北方とあまり会話をしなくなった。顔を見るだけでもイライラしてまうため、必然的に避けるようになったのだ。北方の自分に対する好意も分かっているだけに、気持ちが悪かった。顔に出さないように、いつもと同じようにと心掛けてはいるものの、隠し切れるものでもない。
「はあ」と、美波が溜めていた息を吐き出した。
しかし、北方もまた3人の姿を見ていたことに、美波は全く気付いていなかった。
その後、無事に終業式が終わり、待ちに待った夏休みが始まった。
特にやることが無い周平は、当たり前のようにオカルト研究部に向かう。天秤神社で見聞きした事柄は完璧にまとめてあるが、まだまだ分からないことが多かった。終焉の刻は目前に迫っている。はずではあるが、何がきっかけで起きるかなど、未だに何も分かっていないのだ。
「お疲れ様です」
周平が部室に到着すると、既に先輩2人は自分の席に座っていた。自分の席に座っているということは、凛音の扇風機ブームがようやく終焉の刻を迎えたということだ。扇風機に飽きることが終焉の刻であれば良いのに。と、周平は90パーセント以上本気で思った。
「そういえば、超強力な電磁波は本当に地球を襲うようだぞ」
副部長の拓真が腕組みをしながら、パソコンの画面を見詰めている。それを聞いた凛音が情報の補足をする。
「地球防衛軍からの情報によると、今日の夕方には電波がナチュラルにジャミングされるため、スマホ等の電波を利用する電子機器は使用できなる。ネットでの調べものなどがあるなら、早いうちに見ておきたまえ。少なくとも2週間は続くということだからね」
地球防衛軍ってどこにあるんだよ。と思ったものの、周平は神妙にな顔で応えた。
「大丈夫です。SNSで繋がっているのは、オカルト研究部の3人だけですから」
その言葉を聞き、凛音の扇風機ブームが再来し、拓真はカバンから新作のクッキーを取り出した。


