年が明けて一月以上経っていた。少しづつ日は長くなっていくが、寒さは厳しく、手がかじかんだ。毎朝スケッチする時も、手が思うように動かなくて、カイロで温めながら描いた。
 壮馬は冬に雫の病状が悪化するのではと心配していたが、状態は安定していた。賞に向けて絵を投稿した時から、殆ど体重の減少もなく、心臓の様子も変化が見られないらしい。

 それは何より喜ばしいことだった。しかし今日の壮馬と雫は二人で一つのタブレットを見つめ、浮かない顔をしていた。見つめる先には、応募した賞『新宿アートビジョン新人賞コンテスト』の結果が表示されていた。
「無いね」
「無いなあ」
 二人は何度も自分たちの名前を探してみた。しかし、大賞作は勿論のこと、佳作の欄にも名前は載っていなかった。
「やっぱり無いね」
「やっぱり無いかあ」
 落選だった。

 壮馬はがっくりと項垂れた。しかし、不意に首をもたげる。
「まあこんな賞、落ちても何とも無いけどね。今度はもっと大きい賞に応募して『ノーベル絵賞』とか獲っちゃうもんね」
「ノーベル絵賞?」
 軽口を叩いた壮馬だったが、実を言うとかなり落ち込んでいた。期待はしないようにしていたつもりだった。経験の長い大人や、プロだって応募してくるのだから、普通に考えれば入選するわけがない。そう自分に言い聞かせていたつもりだった。しかし、壮馬にとってもあの応募した絵は渾身の出来だった。あれ以上やりようが無いくらいの物を出せたという自負はあった。その気持ちは否応なしに期待に変わっていたのだろう。
 明るく振る舞っていたのは、雫に気持ちがうつってしまったら大変だと思ったからだ。

 しかし当の雫は殆ど落ち込んでいる様子は見えなかった。自分たちの名前が無いと分かった時は流石に少し寂しそうだったが、ものの三分もすると、「他に良いコンテスト無いかな」と検索を始めていた。
 こういう時は女子の方が逞しいのかもしれない、と壮馬は思った。

「じゃあ、俺はそろそろ塾に行くよ」
「待って」
 壮馬が立ち上がったところで雫が呼び止めた。
「どうしたの?」
「お願いが、あるの。ちょっと」
 雫はそう言って、自分の横をぽんぽんと叩いた。隣に座れということらしい。その表情は、さっきと打って変わって切実さを含んでいた。
「どうしたの?」
 壮馬はベッドに座り、耳を傾ける。雫は誰に聞かれているわけでもないのに、壮馬に耳打ちした。
「えっ」
 壮馬は一瞬、耳を疑った。それが雫の要求だとは、到底思えなかった。
「本当に言ってる?」
 壮馬はちょっと笑ってみせた。
 しかし雫の顔には切実さの色が濃くなるばかりだった。子犬のような目で壮馬を見上げている。
「いや、でも、結構難しいんじゃないかな」
「お願い」
 その声は湿り、揺らいでいた。
 壮馬は腕組みをして考える素振りを見せた。雫の要求は難しい。だが、彼の中で既に答えは出ていた。