それから一年後。
 麗蘭は自分の部屋を持っていました。そこは庭付きで小さな文机と花瓶代わりの湯呑みもございます。お母さまを思う場所をきちんと用意できたのです。
 もちろんここは宮中です。麗蘭は入内するにあたり、皇子さまに3つ条件を申し上げました。
 1つは麗蘭さまの個室を用意すること。1つはお母さまの本を買い戻し、庭と文机で思いを馳せられるようにすること。麗蘭はお母さまの本の名前を知りませんでした。しかし宮中の総力を結集して、記憶に残っていた物語から本を見つけてくださったのです。この2つが叶えられたら、麗蘭さまはもう、家に留まる理由がございませんでした。そして、最後の1つは…。そ

 「お父さまも一緒に入内させていただきとうございます。」

 「それは…。普通ひとりで入内されるものであるからのぉ。」

 皇子さまも最初は難色を示されました。

 「皇子さま、ご存知のとおり、私はあの家でお義母さまと華蓮さまに冷遇されておりました。私なきあと、お父さまがどうなるのかが心配なのでございます。あの2人です。どうかお許しいただけませんでしょうか?」

 普通の家ならば許されなかったかも知れませんが、あの2人がいる家だから許されたのかも知れません。今、お父さまは宮中の侍従として女官の世話係についておられます。

 「麗蘭。お義母さまを連れてきて、本当に申し訳なかった。」

 ある日、朝ごはんを一緒に食べながら、お父さまが言いました。

 「お父さま。私、お義母さまや華蓮さまのこと、恨んでなんかいないんですの。」

 麗蘭さまはお庭の白い花を見つめながらそう言いました。そうそう、この花壇には1つだけお米が植えられていました。あのお米さまです。

 「お義母さまや華蓮さまがあんなお方でなければ、お父さまと入内することなんて叶いませんでしたもの。」

 こうして麗蘭さまは宮中でも名高い和歌の名手として、歌を詠み、お母さまの愛した物語を愛することができるようになりました。