「麗蘭、こちらへ。」

 青空が雲で蓋をされたある日、お父さまが麗蘭(れいら)をお呼びつけになりました。

 「どうなさいました?」

 「新しいお義母(おかあ)さまだ。今日からこの方をお義母さまと呼ぶんだぞ。そして、こちらはお姉さまの…。」

 「華蓮(かれん)と申します。ご機嫌よう。」

 華蓮さまは紫の着物に光り輝く雲の模様が入った着物をお召しで、お義母さまは落ち着いた藤色の着物に濃い茶色の革の鞄をお持ちになられていました。

 「麗しゅう、蘭の花をば愛でるよう、人より愛を受ける子となれ。麗蘭と申します。」

 華蓮さまもお義母さまも鼻で笑っていらっしゃいます。お父さまはニコニコとお母さまが詠んだ和歌をお聞きになっていらっしゃいましたが、お義母さまの鋭い視線に真顔になり、家のご紹介に移られました。

 「お母さま。私、やっていけるのでしょうか。」

 居間の一角に小さな文机があります。そこには麗蘭のお母さまが生前お読みになっていた物語が並んでいます。そこにある小さな湯呑みにお花を生けるのが麗蘭の癒しでもありました。