四人連れ立って、商店街の喫茶店に入ることになった。二人は以前来たことがあるらしい。いわゆる純喫茶だが、全席禁煙で学生にも利用しやすい店のようだった。
「ここのケーキおいしいんだよ」ハーフアップが薦めてくる。
「こういう店に入るのは初めてだけど」僕は言った。「なかなかいい値段するね。僕はコーヒーだけでいいかな。折笠さんは?」
 折笠さんはじっとメニューを眺めながら、「抹茶モンブランパフェ」とつぶやいた。見間違えでなければ、英世や柴三郎を一人生贄に捧げてもなお足りない値段だ。目で「これを奢れ」と圧をかけてくる。マジか。
 各々、注文を決めて卓上の呼び鈴を鳴らす。なお、折笠さんの注文は僕が伝えた。
 注文が届くのを待つ間、僕は目の前のカップルに事情を簡単に説明した。川の救出劇のことは、話がややこしくなるから省略する。単に街中で箒木さんの姉と出会い、妹のことを聞いた、ということにした。
「ちょっと信じがたい話だよね」僕はもはや恒例となったフレーズを口にした。「でも、本当なんだ。だから僕も戸惑ってる。もう一度、彼女と話がしたいんだ」
 二人は反応に困っているように見えた。顔を見合わせ、言葉を探している。そうこうしている間に、注文していたメニューが届いた。人数分のコーヒーにケーキ、そして、抹茶モンブランパフェ。実物は想像以上に大きかった。僕の柴三郎も浮かばれるだろう。
「事情はわかった」ウルフカットが言った。「それで、何が聞きたいの?」
 どうやら、話をする気にはなってくれたらしい。少し安堵する。横で黙々と抹茶モンブランパフェを崩しにかかっている折笠さんを尻目に、僕は言った。
「そうだね、いろいろ聞きたいけど、まずは箒木さんのお姉さんの名前が知りたいかな」
真理亜(まりあ)」ウルフカットが言う。「字はどうだったかな。真理に亜種の亜だったと思うけど」
「合ってる合ってる」ハーフアップが肯定した。
「なるほど。妹が釈迦のお母さんなら、姉はキリストのお母さんってわけか」
「言われてみれば、確かに」ウルフカットは言った。「変わった名前の付け方かも」
「まあ、僕らはクリスマスケーキを食べた数日後に神社のおみくじで一喜一憂するような国民性だし。それで、えーっと、真理亜さんと同じクラスなんだよね。君たちは親しいの?」
「うーん」ハーフアップがうなり声を上げた。「親しい、か。そう言えるほど仲のいい子はそもそもいないかも」
「友だちがいないってこと?」
「少なくともわたしたちにはそう見える」ウルフカットは慎重に言葉を選ぶようにして言った。「正直、近寄りがたい空気の子だね」
「じゃあ、真理亜さんがどういう性格かもよくわからない?」
 二人はしばし返答に窮したように見えた。コーヒーやケーキで時間を稼ぐようにして、ようやく口を開く。
「真面目な子だとは思う」ウルフカットは言った。「それに……不器用、かな」
「ねえ」ハーフアップが相方に問いかける。「あのこと、話してもいいんじゃない?」
 ウルフカットは悩むそぶりを見せた。何か、真理亜にまつわる事件のようなものがあったらしい、と察する。
「あのことって?」
「いちおう言っておくけど、これはここだけの話にしてほしい」ウルフカットは言った。「うちの学年ではほとんどの子が知ってるだろうけど、でも――」
「わかった。他言はしないよ」僕は了承した。「そもそもここにいる折笠さん以外に話す相手もいないしね」
「いまさらだけど、二人はどういう関係なの?」ハーフアップが問う。
 考えてみれば、二人からすれば折笠さんはただこの場に同席して無言で抹茶モンブランパフェを掻き込む謎の女にすぎない。
 とはいえ、ここまで協力してくれた折笠さんを蚊帳の外に置きたくはない。僕は考えて言う。
「マブダチだよ。貸し借りとかそういうケチ臭い観念を超えた互助関係、とでも言うべきかな」
「友だちのことをそういう風に表現する人は初めて」ウルフカットは少し微笑んだように見えた。「じゃあ、話すけど、あれは去年――つまり、わたしたちが高校一年生のときのことだった。さっきも言ったように、わたしたちは箒木さんと同じクラスで、その場面を直接目撃したんだ」