「ダメだったね」
「うん」
自転車を止めている街路樹の影で反省会になった。
折笠さんはありったけの勇気を振り絞り、緑の校章をつけた二人組の生徒に声をかけた。遠目から見ていても、しどろもどろになっているのがよくわかった。それでも、言わんとするところは伝わったらしい。箒木さんという子について知っているか、と。二人組は不審そうな顔をして、首を横に振った。折笠さんはぺこりと頭を下げると、小走りに本拠地まで戻ってきた。
「折笠さんは頑張ったよ。偉い偉い」
「そういうのいいから」折笠さんは顔を紅潮させたまま言った。「キャラメルフラペチーノ」と繰り返し要求する。
「わかってるってば」僕は言った。「でも、どうしようかな」
「まだ続けるの?」
「折笠さんは傍にいてくれるだけでいいよ。男一人だと警戒されそうだしね」
「なら、いいけど」
僕らは自転車で少し移動することにした。何も学校の前で捕まえる必要はない。たとえば、近くの駅までの経路を歩いていれば、自然と生徒も見つかるだろう。
「最初からそうしてればよかったんじゃない?」
「学校の前で捕まえられるならそっちの方が早いでしょ」
折笠さんはあまり納得してないようだった。知らない相手に話しかけるのがよっぽど嫌だったらしい。正直、ここまで人見知りだとは思っていなかった。僕相手にはこんなに辛辣で遠慮がないのに。
「折笠さんって内弁慶タイプ?」
「葉月君が悪いんだよ。真面目な人にはそれ相応の態度を取る」
「兄弟とかいないの」
「いない」
「そっか。僕はね妹がいたんだ」
「妹って、舞ちゃんのこと? 『いた』ってどういう意味?」
「そのままの意味だよ。舞は従妹だからね。それとは別に、血のつながった妹がいたんだよ。それも驚くなかれなんと双子の妹でね」
「本当?」
「まあ、疑うのも無理はないけどね。弥生っていうんだ。頭のいい子でね。まあ、それ以上に暴君だったけれど」
「いまはどうしてるの?」
「死んだよ」僕は言った。「事故みたいなものだった。だけど……まあ、とにかく色々あってね、僕は叔父さんたちの家に引き取られたってわけ」
「本当のことならそんな簡単に言わないで」折笠さんは言った。「正直、いきなり言われても信じられない」
「だよね」
やがて、駅近くの商店街に差しかかった。例の女子校の生徒の姿もちらほら見える。僕らは自転車を降りて、緑の校章を探しはじめた。
「あそこの二人」僕は目線で示した。どこか似た雰囲気の二人組が慎ましやかに談笑している。校章は二人とも緑色だ。
僕らは自転車を押しながらその二人に近づいて行った。
「すみません」僕は正面から声をかけた。「ちょっといいですか」
「ナンパだったら間に合ってまーす」ハーフアップの方がくすくす笑いながら言った。相方と腕を絡める。「うちら付き合ってるんで」
「それはそれは」僕は言った。「でも、ナンパじゃないんですよ。ほら、僕も連れがいますのでね」
「恋人じゃない」折笠さんがぼそっと呟く。
「何ですか?」ウルフカットの方が言った。「東高の人たちですよね?」
「はい。僕ら、箒木さんの妹の同級生なんです。見たところ、お姉さんたちは箒木さんのお姉さんと同級生みたいだったのでちょっと話を聞きたくて。ご存じですか? 箒木さんのこと」
「箒木さんの?」二人は顔を見合わせた。ウルフカットが言う。「東高に通ってたんだ」
「知ってるんですね」
「うん。うちら箒木さんとは一年から同じクラスだし」ハーフアップが言った。「君らも二年だよね? タメでいいよ」
「じゃあ、言葉に甘えて。ここで説明するには少しばかり複雑な事情があるんだけど、僕らは箒木さんについて話を聞きたいんだ」
「どうする?」ウルフカットが相方に問う。
「いいんじゃない? 変な人たちじゃなさそうだし」
「じゃあ」ウルフカットがこちらに向き直った。「場所を移そうか。商店街の真ん中でする話でもなさそうだ」
「うん」
自転車を止めている街路樹の影で反省会になった。
折笠さんはありったけの勇気を振り絞り、緑の校章をつけた二人組の生徒に声をかけた。遠目から見ていても、しどろもどろになっているのがよくわかった。それでも、言わんとするところは伝わったらしい。箒木さんという子について知っているか、と。二人組は不審そうな顔をして、首を横に振った。折笠さんはぺこりと頭を下げると、小走りに本拠地まで戻ってきた。
「折笠さんは頑張ったよ。偉い偉い」
「そういうのいいから」折笠さんは顔を紅潮させたまま言った。「キャラメルフラペチーノ」と繰り返し要求する。
「わかってるってば」僕は言った。「でも、どうしようかな」
「まだ続けるの?」
「折笠さんは傍にいてくれるだけでいいよ。男一人だと警戒されそうだしね」
「なら、いいけど」
僕らは自転車で少し移動することにした。何も学校の前で捕まえる必要はない。たとえば、近くの駅までの経路を歩いていれば、自然と生徒も見つかるだろう。
「最初からそうしてればよかったんじゃない?」
「学校の前で捕まえられるならそっちの方が早いでしょ」
折笠さんはあまり納得してないようだった。知らない相手に話しかけるのがよっぽど嫌だったらしい。正直、ここまで人見知りだとは思っていなかった。僕相手にはこんなに辛辣で遠慮がないのに。
「折笠さんって内弁慶タイプ?」
「葉月君が悪いんだよ。真面目な人にはそれ相応の態度を取る」
「兄弟とかいないの」
「いない」
「そっか。僕はね妹がいたんだ」
「妹って、舞ちゃんのこと? 『いた』ってどういう意味?」
「そのままの意味だよ。舞は従妹だからね。それとは別に、血のつながった妹がいたんだよ。それも驚くなかれなんと双子の妹でね」
「本当?」
「まあ、疑うのも無理はないけどね。弥生っていうんだ。頭のいい子でね。まあ、それ以上に暴君だったけれど」
「いまはどうしてるの?」
「死んだよ」僕は言った。「事故みたいなものだった。だけど……まあ、とにかく色々あってね、僕は叔父さんたちの家に引き取られたってわけ」
「本当のことならそんな簡単に言わないで」折笠さんは言った。「正直、いきなり言われても信じられない」
「だよね」
やがて、駅近くの商店街に差しかかった。例の女子校の生徒の姿もちらほら見える。僕らは自転車を降りて、緑の校章を探しはじめた。
「あそこの二人」僕は目線で示した。どこか似た雰囲気の二人組が慎ましやかに談笑している。校章は二人とも緑色だ。
僕らは自転車を押しながらその二人に近づいて行った。
「すみません」僕は正面から声をかけた。「ちょっといいですか」
「ナンパだったら間に合ってまーす」ハーフアップの方がくすくす笑いながら言った。相方と腕を絡める。「うちら付き合ってるんで」
「それはそれは」僕は言った。「でも、ナンパじゃないんですよ。ほら、僕も連れがいますのでね」
「恋人じゃない」折笠さんがぼそっと呟く。
「何ですか?」ウルフカットの方が言った。「東高の人たちですよね?」
「はい。僕ら、箒木さんの妹の同級生なんです。見たところ、お姉さんたちは箒木さんのお姉さんと同級生みたいだったのでちょっと話を聞きたくて。ご存じですか? 箒木さんのこと」
「箒木さんの?」二人は顔を見合わせた。ウルフカットが言う。「東高に通ってたんだ」
「知ってるんですね」
「うん。うちら箒木さんとは一年から同じクラスだし」ハーフアップが言った。「君らも二年だよね? タメでいいよ」
「じゃあ、言葉に甘えて。ここで説明するには少しばかり複雑な事情があるんだけど、僕らは箒木さんについて話を聞きたいんだ」
「どうする?」ウルフカットが相方に問う。
「いいんじゃない? 変な人たちじゃなさそうだし」
「じゃあ」ウルフカットがこちらに向き直った。「場所を移そうか。商店街の真ん中でする話でもなさそうだ」

