「葉月君!?」
ぼんやりとした視界に、見覚えのある顔が二つ並んでいた。誰だろう。うまく思い出せない。
「舞ちゃん、お医者さん呼んで!」
「はい!」
「舞?」
「そうだよ」手を握られる。「お兄ちゃん……よかった。本当によかった」
「心配させて、このバカ」もう一方の少女が罵ってくる。「もう目を覚まさないかと思った」
「ごめん」そんな言葉が口を突いて出た。「なんだかまだぼーっとするんだ。まるで夢の中にいるみたいで……って、あれ」
なぜだろう。涙があふれてくる。目頭が熱い。両手をそれぞれ握られたままで、涙が拭えない。
「よかった。本当によかった」少女――折笠さんが繰り返す。「真理亜さんに続いて葉月君まで目を覚まさなかったら、わたし――」
「真理亜?」僕は呟いた。「真理亜って、誰?」
折笠さんは一瞬、ぽかんとした後、「そうだよね」と何か納得したような表情に切り替わった。程なくして、看護師と医者がやって来る。僕はいくつか簡単な質問に答えながら、徐々に世界と自分自身の輪郭を取り戻していくのを感じた。
「痛いところは?」
「いえ、でもなんだか――長い夢を見てたみたいで。でも思い出せないんです。どんな夢だったか。それで、その夢について思い出そうとすると胸がひどく痛んで――」
僕は言葉を区切った。こみあげてくるものを抑えながら続ける。
「おかしいな。誰の涙なんだろう。さっぱり思い出せない」

