最初の「報告会」は一時間も経たずに終わった。残った時間、僕らのリクエストで、再度折笠さんが歌うことになった。カラオケに来たことがないと言う割に、折笠さんは歌がうまかった。僕と真理亜は手を叩き、顔を見合わせて微笑み、我らが歌姫を称賛し、アンコールを唱え続け、折笠さんははにかみながらも、次から次へと十八番のナンバーを歌い、僕らはまた笑って、笑って、笑って、この時間が終わらないことを願い、延長料金を支払うことになってもなお、しばらくの間、折笠さんのソロコンサートを堪能した。
「せっかくだし、今日はこのまま遊ばない?」
 カラオケ店を出た後、僕は提案した。二人は少し戸惑うようにした後、頷き、僕らはそのまま駅前の商業施設に足を向けた。
 ゲームセンターのクレーンゲームで、三人がかりで競走馬の大きなぬいぐるみをゲットし、一〇〇円ショップのアイディアグッズに感嘆し、ファストファッションのチェーン店で人気キャラクターとのコラボ商品を、出店の陶器店で多種多彩な食器の模様を見て回り、気づけば三人とも何かしらの買い物袋を抱えていて――
「ほら、記念だよ。二人とも笑って。何って、そりゃ友だちになった記念の日。じゃあ、撮るよ。パルメザン? チェダー? カマンベールッ!」
 笑っていた。折笠さんも、真理亜も。そして、たぶん僕も。写真には残らなくても、きっとずっと、この日を忘れないだろう。
 夕焼けの帰り道、空に浮かぶ飛行機雲を眺めながら、願う。
 ずっと、このままであってほしい、と。
 何も変わらなくたっていい。
 何もわからなくたっていい。
 ただ、この時間が続いてほしかった。
 そのせいだろうか、僕は言い出せなかった。
 あの日、泣いていた麻耶のことを。
 自分が本当は彼女と話したことがあったということを。
 それをずっと忘れていたということを。