「ずいぶんと歯切れが悪いのね」真理亜はルイボスティーを片手に言った。「修学旅行……ね」
「君は麻耶から何か聞いていないの?」僕は尋ねた。「修学旅行について」
「特には何も」真理亜はかぶりを振った。「それこそ猫の話くらいよ。尾曲り猫とやらのね。だけど……」
「何?」
「そうね、修学旅行の前後から……あの子の雰囲気が少し変わった気がするの」
「というと?」
「うまく言葉にはできない。だけど、何ていうのかしら、それまで以上にボーっとしてるように見えて。好きだったホラー映画もろくに見てないようだった」
「ホラー映画が好きだったというのは初耳だけど……」言いながら、思い出す。「彼女の友だちに同じ趣味の子がいたな。あれはそういうことか」
「そう、趣味の話ができる友だちがいたのね」
「うん」
僕は上水口さんを訪れたときのことについて簡単に説明した。「上水口さんは麻耶が大事にしてるオルゴールがあったって言ってたけど……」
真理亜はルイボスティーを飲み干してから、「そうね、そろそろこちらが話す番かしら。でもその前に飲み物を取ってきていい?」
「ああ、うん。僕も行くよ」
「わたしが注いでくるわ。何がいい?」
「じゃあ、メロンソーダで」
「了解」
真理亜は部屋を出た。
「どう思う?」折笠さんに尋ねた。
「え、何が?」折笠さんはパンケーキにナイフを入れながら言う。
「オルゴールって言葉に反応したように見えた」
「そう?」
「あくまで僕の直感だけどね。でも、一度こうやってクールタイムを設けたのも、彼女なりに整理をつけるためかもしれない」
「何か隠そうとしてるってこと?」
「そうは言ってないさ。だけど、容易に語れることでもないのかもしれない。麻耶はそのオルゴールを大事にしていたみたいだからね。相応の逸話があってもおかしくはない」
真理亜がドリンクを両手に戻ってきた。礼を述べ、コップを受け取る。
「オルゴールのことだけれど」真理亜は言った。「あの子の宝物だったことは知ってる。秩父にいたとき、友だちからもらったものらしいの」
「その友だちって?」
真理亜はかぶりを振った。「わからない。あの子が秩父にいたときのことはほとんど何も知らないの」
「そういえば、彼女はいつ頃こっちに戻ってきたの?」
「高校に入学するタイミングね。両親としては、ほとぼりが冷めた……という判断だったんでしょうね」
僕は言葉を呑みこんだ。いまは彼女の両親について言及を加える機会ではない。
「そのオルゴールだけど、僕らが現物を見ることはできないな」
「どうして?」
「特に理由はないけれど……麻耶が大事にしていたという物なら、一度どういうものか見ておきたくて」
「そう……でも、もしかしたらそれはむずかしいかもしれない」
「どうして」
「そのオルゴールがどこにあるかわからないの」真理亜は言った。「まだ遺品を整理してる途中ではあるんだけど、いまのところはどこにも見当たらない。あの子の部屋のどこにも」
「普段、どこにあったかはわかる?」
「学校があるときはだいたい常に持ち出してた。でも、学校に置いてくることはないと思う。大事なものだから」
「学校にあった遺品は返ってきてるんだよね?」
「ええ。教科書とか小物の類は。その中にもオルゴールはなかった」
「上水口さんによれば、彼女は頻繁にオルゴールを使う機会があった」僕は確認するように言う。「なら、目につきづらい場所にしまうことは考えづらい。すぐ見つかるような場所に置いておくはずだよね」
「そうね」真理亜は認めた。「とにかく、オルゴールに関しては見つけ次第連絡するわ」
だが、もし見つからなかったら? オルゴールが何かしらの形で永久に失われてしまったのだとしたら、それはきっと麻耶にとってショックな出来事だったに違いない。
「オルゴールの件はいいとして、その……遺書の方はどうかな」
「……ええ、持ってきた」真理亜は言うと、バッグからバインダーを取り出した。クリップボードを兼ねているタイプらしい。開くと、メモ帳らしき紙が一枚挟まっていた。
「見せてもらってもいい?」
「そのつもりがなかったら、持ってこないわ」真理亜はテーブルの上にバインダーを置いた。
「君は麻耶から何か聞いていないの?」僕は尋ねた。「修学旅行について」
「特には何も」真理亜はかぶりを振った。「それこそ猫の話くらいよ。尾曲り猫とやらのね。だけど……」
「何?」
「そうね、修学旅行の前後から……あの子の雰囲気が少し変わった気がするの」
「というと?」
「うまく言葉にはできない。だけど、何ていうのかしら、それまで以上にボーっとしてるように見えて。好きだったホラー映画もろくに見てないようだった」
「ホラー映画が好きだったというのは初耳だけど……」言いながら、思い出す。「彼女の友だちに同じ趣味の子がいたな。あれはそういうことか」
「そう、趣味の話ができる友だちがいたのね」
「うん」
僕は上水口さんを訪れたときのことについて簡単に説明した。「上水口さんは麻耶が大事にしてるオルゴールがあったって言ってたけど……」
真理亜はルイボスティーを飲み干してから、「そうね、そろそろこちらが話す番かしら。でもその前に飲み物を取ってきていい?」
「ああ、うん。僕も行くよ」
「わたしが注いでくるわ。何がいい?」
「じゃあ、メロンソーダで」
「了解」
真理亜は部屋を出た。
「どう思う?」折笠さんに尋ねた。
「え、何が?」折笠さんはパンケーキにナイフを入れながら言う。
「オルゴールって言葉に反応したように見えた」
「そう?」
「あくまで僕の直感だけどね。でも、一度こうやってクールタイムを設けたのも、彼女なりに整理をつけるためかもしれない」
「何か隠そうとしてるってこと?」
「そうは言ってないさ。だけど、容易に語れることでもないのかもしれない。麻耶はそのオルゴールを大事にしていたみたいだからね。相応の逸話があってもおかしくはない」
真理亜がドリンクを両手に戻ってきた。礼を述べ、コップを受け取る。
「オルゴールのことだけれど」真理亜は言った。「あの子の宝物だったことは知ってる。秩父にいたとき、友だちからもらったものらしいの」
「その友だちって?」
真理亜はかぶりを振った。「わからない。あの子が秩父にいたときのことはほとんど何も知らないの」
「そういえば、彼女はいつ頃こっちに戻ってきたの?」
「高校に入学するタイミングね。両親としては、ほとぼりが冷めた……という判断だったんでしょうね」
僕は言葉を呑みこんだ。いまは彼女の両親について言及を加える機会ではない。
「そのオルゴールだけど、僕らが現物を見ることはできないな」
「どうして?」
「特に理由はないけれど……麻耶が大事にしていたという物なら、一度どういうものか見ておきたくて」
「そう……でも、もしかしたらそれはむずかしいかもしれない」
「どうして」
「そのオルゴールがどこにあるかわからないの」真理亜は言った。「まだ遺品を整理してる途中ではあるんだけど、いまのところはどこにも見当たらない。あの子の部屋のどこにも」
「普段、どこにあったかはわかる?」
「学校があるときはだいたい常に持ち出してた。でも、学校に置いてくることはないと思う。大事なものだから」
「学校にあった遺品は返ってきてるんだよね?」
「ええ。教科書とか小物の類は。その中にもオルゴールはなかった」
「上水口さんによれば、彼女は頻繁にオルゴールを使う機会があった」僕は確認するように言う。「なら、目につきづらい場所にしまうことは考えづらい。すぐ見つかるような場所に置いておくはずだよね」
「そうね」真理亜は認めた。「とにかく、オルゴールに関しては見つけ次第連絡するわ」
だが、もし見つからなかったら? オルゴールが何かしらの形で永久に失われてしまったのだとしたら、それはきっと麻耶にとってショックな出来事だったに違いない。
「オルゴールの件はいいとして、その……遺書の方はどうかな」
「……ええ、持ってきた」真理亜は言うと、バッグからバインダーを取り出した。クリップボードを兼ねているタイプらしい。開くと、メモ帳らしき紙が一枚挟まっていた。
「見せてもらってもいい?」
「そのつもりがなかったら、持ってこないわ」真理亜はテーブルの上にバインダーを置いた。

