懺悔の場所は教会ではなく、近くの神社だった。
芝川沿いに建つ、中山神社だ。別名を中氷川神社といい、大宮氷川神社、氷川女體神社と合わせて氷川三社と呼ばれている。三社は地図上では一直線に等間隔に並んでおり、いわゆる龍脈を形成しているとのことだ。また、宗像神社、調神社、久伊豆神社と合わせてオリオン座の並びを表現しているという説もある。古代日本で鼓星と呼ばれたオリオン座は、スサノオを表す星とされているという。
大宮氷川神社はスサノオを主神として祀る神社だ。氷川女體神社はクシナダヒメを、中川神社はその子孫である大己貴命を祀っているという。
二人並んで一之鳥居を抜け、樹木が並ぶ長い参道を渡り、二乃鳥居を抜けて手水舎で手を清めてから、石造りの階段を上って拝殿へと至る。賽銭箱に小銭を投げ、お祈りをする。お互いに何を祈ったのかは言わなかった。
「来て」
真理亜が僕を導く。言われるままついていくと、二之鳥居を右に折れたところに祠があった。摂社というやつだろう。切り妻屋根の祠の中にさらに小さな祠がある。
「これは?」
「アラハバキを祀る祠。聞いたことない?」
「あいにくと」
「アラハバキっていうのは、この土地で古くから信仰されていた土着の神。スサノオによって討伐されるまでの話だけどね」
「スサノオ?」
「そう、あなたにも話したわね」真理亜は言った。「麻耶はこういうことに興味があったみたい。家であまり話をする方じゃなかったけど、なんとなく、そういうことがわかった。わかる程度には会話があった」真理亜はこちらを振り向き、「うちの苗字、ハバキって読むでしょう?」
「そういえば、そうだね」
「だからなのか、あの子はアラハバキという存在に興味を持った。それで、自分でも名乗るようになったの。龍に木と書いてハバキって」
「龍?」
「そう、アラハバキっていうのは蛇神――あるいは龍神だとも言われている。龍神っていうのはつまり、水害だったり嵐のことね。むかしの人たちはそうした災害を龍や大蛇に見立てて恐れ、鎮めようとした。たとえばヤマタノオロチなんかも」
真理亜の話を聞いていると、祠の注連縄が蛇のように見えてくる。
「麻耶は自分をアラハバキに重ねてたってこと? それじゃあ、スサノオっていうのは――」
「そうね、自分を倒す相手ってことになるのかしら」
麻耶は自分をクシナダヒメにたとえているものだと思っていた。スサノオの妻であり、囚われのお姫様だ。しかし、そうではなかったらしい。彼女は、僕が討つべき龍だったのだ。
「なるほど。そういう風に書かれてたんじゃ、僕を悪く思ってもしょうがないね。アラハバキから見れば、スサノオはただの侵略者だもの」僕は続けて、疑問を呈する。「でも、ただそれだけ? 名前が似てるからってだけで自分を古い神様と重ねてたの?」
「そうね、そこのところはわたしもはっきりしたことはわからない。でも、龍――ドラゴンっていうのは西洋でも悪のシンボルでしょう? あの子が自分を討たれるべき悪と考えてもおかしくはないと思う」
「彼女がそういう風に思うきっかけっていうのはもしかして、小学生のときのこと?」
「知ってるのね」
「うん。ごめん」
「いいの。あれはわたしの罪でもあるから」
「その罪っていうのは、麻耶を止められなかったこと? そんなの――」
遮るようにして、真理亜は首を振る。
「あの日、あの子を突き落としたのは麻耶じゃない。わたしなの」
芝川沿いに建つ、中山神社だ。別名を中氷川神社といい、大宮氷川神社、氷川女體神社と合わせて氷川三社と呼ばれている。三社は地図上では一直線に等間隔に並んでおり、いわゆる龍脈を形成しているとのことだ。また、宗像神社、調神社、久伊豆神社と合わせてオリオン座の並びを表現しているという説もある。古代日本で鼓星と呼ばれたオリオン座は、スサノオを表す星とされているという。
大宮氷川神社はスサノオを主神として祀る神社だ。氷川女體神社はクシナダヒメを、中川神社はその子孫である大己貴命を祀っているという。
二人並んで一之鳥居を抜け、樹木が並ぶ長い参道を渡り、二乃鳥居を抜けて手水舎で手を清めてから、石造りの階段を上って拝殿へと至る。賽銭箱に小銭を投げ、お祈りをする。お互いに何を祈ったのかは言わなかった。
「来て」
真理亜が僕を導く。言われるままついていくと、二之鳥居を右に折れたところに祠があった。摂社というやつだろう。切り妻屋根の祠の中にさらに小さな祠がある。
「これは?」
「アラハバキを祀る祠。聞いたことない?」
「あいにくと」
「アラハバキっていうのは、この土地で古くから信仰されていた土着の神。スサノオによって討伐されるまでの話だけどね」
「スサノオ?」
「そう、あなたにも話したわね」真理亜は言った。「麻耶はこういうことに興味があったみたい。家であまり話をする方じゃなかったけど、なんとなく、そういうことがわかった。わかる程度には会話があった」真理亜はこちらを振り向き、「うちの苗字、ハバキって読むでしょう?」
「そういえば、そうだね」
「だからなのか、あの子はアラハバキという存在に興味を持った。それで、自分でも名乗るようになったの。龍に木と書いてハバキって」
「龍?」
「そう、アラハバキっていうのは蛇神――あるいは龍神だとも言われている。龍神っていうのはつまり、水害だったり嵐のことね。むかしの人たちはそうした災害を龍や大蛇に見立てて恐れ、鎮めようとした。たとえばヤマタノオロチなんかも」
真理亜の話を聞いていると、祠の注連縄が蛇のように見えてくる。
「麻耶は自分をアラハバキに重ねてたってこと? それじゃあ、スサノオっていうのは――」
「そうね、自分を倒す相手ってことになるのかしら」
麻耶は自分をクシナダヒメにたとえているものだと思っていた。スサノオの妻であり、囚われのお姫様だ。しかし、そうではなかったらしい。彼女は、僕が討つべき龍だったのだ。
「なるほど。そういう風に書かれてたんじゃ、僕を悪く思ってもしょうがないね。アラハバキから見れば、スサノオはただの侵略者だもの」僕は続けて、疑問を呈する。「でも、ただそれだけ? 名前が似てるからってだけで自分を古い神様と重ねてたの?」
「そうね、そこのところはわたしもはっきりしたことはわからない。でも、龍――ドラゴンっていうのは西洋でも悪のシンボルでしょう? あの子が自分を討たれるべき悪と考えてもおかしくはないと思う」
「彼女がそういう風に思うきっかけっていうのはもしかして、小学生のときのこと?」
「知ってるのね」
「うん。ごめん」
「いいの。あれはわたしの罪でもあるから」
「その罪っていうのは、麻耶を止められなかったこと? そんなの――」
遮るようにして、真理亜は首を振る。
「あの日、あの子を突き落としたのは麻耶じゃない。わたしなの」

