翌日から、いよいよ僕らのクラスでも文化祭の準備がはじまった。どうやら、教室にステンドグラスを展示するらしい。もちろん、本物ではない。台紙にカラーセロファンを貼り合わせたものだろう。長崎の教会から想を得た誰かが提案したらしい。考えてみれば、長崎にあるのは海と尾曲がり猫ばかりではない。美しいカトリックの教会がいくつもある。質素で禁欲的なプロテスタントの教会とは違って、色彩豊かなステンドグラスや、豪華な祭壇が設けられた教会が。
担当が割り振られ、資材調達班、デザイン班、作業班と分けられる。僕と折笠さんは揃って作業班になった。つまり、しばらく仕事はない。デザインに口を出せるほどの美的センスもない。いつも通り、HRが終わるとそのまま帰路に着いた。
「上水口さんがいてくれればいいんだけどね」委員長は言った。「あの子、イラストとかうまいし、デザイン班にいたらきっと中心的な役割になったんじゃないかな」
僕らは知らないことばかりだ。自分たちがどれだけクラスメイトと疎遠にしていたか、思い知らされる。そんなことを折笠さんと話した。相変わらず、揃ってスマホの中の神々をポチポチと動かしながら。
箒木姉妹のことは、あまり話さなかった。これ以上踏み込んでいいものか、お互いに迷いがあったのだと思う。麻耶は死んだ。真理亜はもうかかわらないでと言った。放っておけば、彼女たちの人生が僕らと再度交わることはないだろう。
文化祭やテスト、それにじきに訪れる受験の備え。学生らしい日常に忙殺され、彼女たちのことも忘れてしまうかもしれない。何の陰りのない人生を送ってきました、という顔で大学や企業の面接に赴くのかもしれない。そんな嘘と忘却ばかりの人生を送ることになるのかも。どこにでもいる普通の大人になって、奨学金や家族を人質に取られ、いいようにこき使われる奴隷となるのかも。
素晴らしき薔薇色の人生だ。何せ、みんな望んでそのような人生を送ることになるのだから。きっとそれだけの価値があるのだろう。
だけど――そう、だけどだ。
あいにくと愚か者の僕にはその価値がわからない。
担当が割り振られ、資材調達班、デザイン班、作業班と分けられる。僕と折笠さんは揃って作業班になった。つまり、しばらく仕事はない。デザインに口を出せるほどの美的センスもない。いつも通り、HRが終わるとそのまま帰路に着いた。
「上水口さんがいてくれればいいんだけどね」委員長は言った。「あの子、イラストとかうまいし、デザイン班にいたらきっと中心的な役割になったんじゃないかな」
僕らは知らないことばかりだ。自分たちがどれだけクラスメイトと疎遠にしていたか、思い知らされる。そんなことを折笠さんと話した。相変わらず、揃ってスマホの中の神々をポチポチと動かしながら。
箒木姉妹のことは、あまり話さなかった。これ以上踏み込んでいいものか、お互いに迷いがあったのだと思う。麻耶は死んだ。真理亜はもうかかわらないでと言った。放っておけば、彼女たちの人生が僕らと再度交わることはないだろう。
文化祭やテスト、それにじきに訪れる受験の備え。学生らしい日常に忙殺され、彼女たちのことも忘れてしまうかもしれない。何の陰りのない人生を送ってきました、という顔で大学や企業の面接に赴くのかもしれない。そんな嘘と忘却ばかりの人生を送ることになるのかも。どこにでもいる普通の大人になって、奨学金や家族を人質に取られ、いいようにこき使われる奴隷となるのかも。
素晴らしき薔薇色の人生だ。何せ、みんな望んでそのような人生を送ることになるのだから。きっとそれだけの価値があるのだろう。
だけど――そう、だけどだ。
あいにくと愚か者の僕にはその価値がわからない。

