朝霧が冥華殿の庭をゆっくりと包み込む。薄く紫がかった空気の中、冥火の灯がかすかに揺れ、静かに燃え続けていた。

雪白はまだ眠る白夜を胸に抱きしめ、その小さな背中にそっと手を添える。冷たく澄んだ夜の空気の中に、確かに温もりが満ちていた。


「もうすぐ朝が来る……」


彼女の声は震えながらも希望に満ちていた。

幼い命を抱く母としての責任と、不安。生まれ育った冥界が変わりゆくことへの期待と恐怖が胸の奥で交錯する。


「あなたは、私たちの未来だよ」


呟くように言った雪白に、夜叉丸が静かに応えた。


「迷うな。貴様はこの冥の王妃、そして白夜の母だ」


彼の言葉はまるで鎧のように雪白の心を包み込み、揺るがぬ決意を与えた。

夜叉丸は歩を進め、雪白と白夜を庭の中央にある石のベンチへと誘った。

そこに腰を下ろすと、夜叉丸は深く息を吐き、遠く冥の闇に目を凝らす。