壇上の高台に夜叉丸が進み出る。
その声は低く、しかし全てを貫く覚悟で震えていた。
「神界に告ぐ。
冥は命を宿し、命を紡ぐ世界となった。
その証をこの暦に込めた。
これに背く者は、冥の火が許さない」
その宣言に神界の使者たちは静かにうなずき、諫めの声は聞こえなかった。
壇上から見下ろす民たちの顔。
彼らの瞳には希望と信頼が揺れていた。
雪白は胸に、密かに呟いた。
“あなたの命が、みんなの未来をつくる”
“母であり、王妃である私が、その灯火を守る”
その思いが、心臓の奥でぐっと熱くなった。
ふと思い出す。
かつて失われた愛――燈の微笑み、黄泉返しの儀式の影。
その償いとして――雪白は冥火を白夜に向けて、静寂の祈りを捧げた。
「ここに誓います。失われた記憶も、救われる命も、すべてを紡ぐよう守ります」
その光景に、空を駆けた冥火が輝きを増し、忘れられた記憶を包み込むように消えていった。



