夜が明ける直前、冥華殿の中庭は淡い黎明を迎えようとしていた。
冥火の花々が小さく光を放ち、あやかしたちがそっと集い始める。
雪白は夜叉丸とともに、壇上に立っていた。
その手には白夜が眠り、すでに王妃として、母としての風格が宿っている。
「みなさま――
今日ここに、私たちは“命”を祝福し、新たな暦を紡ぎ始めます」
雪白の言葉は震えていたが、まぎれもない力が込められていた。
「この小さな命は、冥を、神を、そして私たちをつなぎます。
命を忘れぬ暦――それが、これからの冥の歩みです」
席に座した冥の民たちが一斉に拍手し、喜びの声を上げる。
彼らの目には確かな未来への期待がにじんでいた。
長老格の影妖が歩み寄り、雪白に小さな花輪を捧げる。
「冥の暦を紡ぐ王妃よ……我らは貴女を、そして貴き命を守ります」
雪白は涙をこらえてその言葉を受け取り、深くお辞儀をした。
その姿は母として、王妃として、民を導く存在となっていた。
壇上にいる白夜がふと目を覚まし、眠たげに笑った。
その姿を見た雪白は胸が熱くなる。
「あなたの笑顔が、この暦の始まりです」
夜叉丸は指で空に冥火の紋様を描き出し、民から歓声が湧く。
「白夜よ。貴様の命から、新たな物語が始まる。
父と母を信じ、共に歩もう」
白夜は静かに頷き、その小さな拳を母の胸に寄せた。



