雪白はそっと両手を胸に戻し、白夜を撫でる。
ふわりとした指先に、命の鼓動を感じている。

「あなたが、私の命。私の未来……」

声は震えていたが、その言葉には揺るぎない決意があった。
我が子にかける初めての詞だった。

彼女の胸に生まれた決意――
それは、白夜という存在そのものが、冥界に新たな時代をもたらすと信じることだった。



夜叉丸は静かに立ち上がり、雪白と白夜を見つめた。

「白夜よ。貴様は、冥の命を紡ぐ者として、この世に来た。
母はお前の命を守り、父はその後ろで世界を照らす」と低く語りかける。

夜叉丸の声は、剣の鋭さと魂の深さを併せ持っていた。
その眼差しは、雪白と白夜に捧げられる“誓い”だった。

雪白はその言葉に涙を浮かべ、夜叉丸の手を握り返す。

「ありがとうございます……あなたとなら、この命も、冥の未来も、恐れずに歩んでいけます」

二人の手の間で、白夜がかすかに微笑んだように見えた。

産後数日、雪白は静かに回復しつつあった。
冥の医師たちが慎重な祝福をかけ、若き命を守りながら、冥華殿は限りない祝意に包まれていた。

庭では冥火の花が舞い、あやかしたちが命の祝福として踊り、祭壇には新たなる命を讃える供物が並ぶ。

雪白は母として自らの“不全”を思い知る。
傷つき、朽ちる自らの身体――
しかし同時に、母として命に選ばれた幸福を噛み締めていた。

「この命を紡いだからこそ――」
それはまるで、冥を包む暗闇に第一の花を咲かせた瞬間だった。