夜が明けきらぬ時刻――
香の余韻に包まれた寝所の空気は、静寂と祝意が交差し、まるで神聖な幕間のようだった。
雪白はまだ朦朧とした意識の中で、小さな命を胸に抱いていた。
赤子の名は“白夜(びゃくや)――冥と神と人の交わる、新たなる朝”。
産声の余韻は、冥界にまばゆい光を呼び込むようだった。
雪白がゆっくりと瞼を開ける。
目に映るのは、優しく白夜を見つめる夜叉丸の横顔と、冥火に照らされて穏やかな寝所の光景。
「……大丈夫、雪白様」
声には心配と安堵、そして尊敬が込められていた。
雪白は微笑みながら、小さな手を夜叉丸の胸にそっと置いた。
そのとき、胸の奥にあたたかく満たされていく何かを感じた。
──“愛”とは、このことを言うのだろうか。
幼い頃に憧れた、誰にも頼らず強くあろうとした自分――
しかし今、彼女は知った。
強さとは、誰かと繋がり、支え合うことによって育まれていくものだと。



