その夜、冥華殿の結界が不穏に震え、鈴のような音が中庭に響いた。

外門が静かに開かれ、内から玄黄大臣以下、神界の軍が姿を現した。
陰の者たちが槍を構え、冥王妃を狙う。

雪白は恐れに震えながらも、夜叉丸とともに立ち上がる。

「なぜ、また来たのですか!」
雪白の声は震えていたが、威厳すらも宿っていた。

玄黄大臣は低く笑った。
「命の産声を聴く前に――冥の宝を奪いに来た」

その言葉が雪白の胸を激しく切りつけた。


夜叉丸は剣を抜き、冥火が手から迸る。
「貴様らが冥の命に手を触れることは許さない」

影妖も合流し、混戦が始まった。

雪白は腹の痛みに耐えながら、医師と使者に指示を出す。
「私が戦う。赤子を守る!」

仁王立ちする雪白の姿に、兵士たちは深く息をつき、奮い立った。

戦いの最中、雪白の腹に激しい痛みが走る。
そして、胎児の胎動が鋭く響く。

彼女は必死で腰を押さえる。
「白夜……あなたの力を、母が受け止めます」

その瞬間、冥火が胎内へ向かって浸透するように広がった。

――雪白と胎児が、ひとつになる瞬間だった。