夜が深まり、冥華殿には異様な静けさが漂っていた。
障子の灯りは揺れ、雪白は寝所の中でうずくまりながら、ゆっくりと息をついた。
「……陣痛、近いかもしれない」
彼女の指が、ふくれた腹をそっと撫でる。その手は未来を脈打つ命を感じていた。
夜叉丸がそっと傍に寄り添い、柔らかな声をかけた。
「無理はするな。すぐに呼び声をあげろ」
雪白は深く頷き、彼の手をとったまま静寂に耐える。
やがて、穏やかな腹の中に、鋭い痛みが走った。
冷たい夜気が身体を刺すように氷る。雪白は刹那呻きながらも、目を閉じた。
その瞬間、幼子が胎内で反応するように動き、心配そうにお腹が揺れる。
「白夜……ごめんなさい、痛いよね。でも、もうすぐなのよ」
彼女の囁きには痛みと母性が交じり合い、胎児に確かな優しさが伝わった。
夜叉丸も息を呑み、雪白の腰に手を添える。
「俺がいる。ずっと、そばにいる」
その声が雪白の中の闇を照らした。



