夜叉丸は小さく息を吐き、言葉を発する。

「お前は、冥を離れ、神界と通じた。あのときの裏切りを忘れたわけではない」

燈は苦笑する。
「今でも……冥と神の調和のために、必要な役目だったのよ」
その言葉の裏には、深い悲しみと誇りが垣間見えた。

夜叉丸は静かに見返し、言った。
「それでも、お前の言う“調和”は選ばなかった」

雪白はそっと彼の手を取り、心の中で問いかけた――彼を愛し続けていいのか。



突然、燈が手を宙に掲げた。
「黄泉返し——」と線を描くように呟く。

秘儀の構えが庭に響き、障子越しに淡い黒霧が漏れ出す。
「死者の記憶を喰らい、冥を崩壊に導く禁術……」
それは、冥にとって最大の禁忌だった。

雪白は我が腹をかかえ、痛みに呻いた。

「これは……胎児にも……!」

夜叉丸は轟然と冥火を噴き出すが、どうにもならない。

黒霧は夜叉丸の影にすら浸透し、塗り潰していくように――