「……わたし、いらない子なの……?」


 ぽつりと口から漏れたその言葉に、涙が溢れた。

 唇を噛みしめた。泣いちゃいけない。泣いたら弱くなる。
 そう何度も言い聞かせてきたのに、頬を伝う滴は止められなかった。


 胸が痛かった。頭が痛かった。
 心が――どこまでも、空っぽだった。

 

 そのとき、障子の向こうから、かすかな声が聞こえてきた。


 「霞様ったら、本当にお美しいわ。加護を受けたあの瞬間、まるで神子様のようでしたね」

 「ほんと。まさか、雪白様には何も降りないなんて。やっぱり“お母様の祟り”じゃなくて?」

 「お可哀想に……って、言うだけ無駄ですわよ。今や“家の穢れ”ですもの」


 笑い声が、障子越しに漏れてくる。
 女中たちの、残酷な声。


 (聞こえてる……そんなの、聞きたくないのに)


 雪白は耳を塞いだ。
 けれど、心の奥に響くように、その言葉たちは刻み込まれていった。

 

 「……もう、こんな場所……いやだ」


 声にならない声を吐きながら、雪白はふらりと立ち上がった。

 身体は重く、足元が覚束ない。
 けれど、止まっているよりはマシだった。

 ただ、どこかへ行きたかった。
 ――この苦しみが届かない場所へ。