中庭へ戻る道すがら、雪白はふと想い出に囚われた。

幼い頃、白巫女の家で木々の影に隠れていた少女――彼女はいつも「何も持たない自分」を感じていた。
神界の器だと言われながらも、自分からは何も取りに行けない……そんな無力さ。

「でも、今の私は違う」と雪白は心に呟く。
胎内に宿る命を育む、その力がある。人として、母として、冥の王妃として、歩む覚悟がある――。

夜空を見上げ、その光は、胎児への祈りへと変わっていった。